Dr.Basko を訪ねて

 先日ハワイのカウアイ島に在住するホリスティック医療の獣医師、Dr. Ihor Baskoのクリニック「All Creatures Great & Small」を尋ねる機会がありました。彼は、おそらくアメリカで最初に犬の手作り食を始め普及した人物で、栄養療法の第一人者として、マッサージ、ホメオパシー、ハーブ、キネシオロジーなど様々な手法を織り交ぜ治療を行なっています。実際に治療の現場に接し、彼から大変貴重な話を伺うことができました。今回は、その一部をお話したいと思います。
 アメリカで手作り食というとほとんどが生食を推奨し、それでなければ意味がないくらいの極端な場合が多いのですが、彼の考えは実に柔軟でバラエティーにとんだものであり、形だけの手作り食ではなく、栄養の根本と臨床を理解した人の手作り食だと痛感しました。その基本コンセプトは、「犬の個体差は犬種、体重、体調、性別などのほかに、出生地と現在生活している国の風土や気候が大きく関与してくる」という点でした。たとえば、ハワイではハスキー犬は長生きできないそうです。それは、寒い地域出身のハスキーの代謝はそれに適応するようできているにもかかわらず、ビーグルやラブラドールで給餌試験を行ったペットフードを与えるので、エネルギー量が高すぎ、体内に過剰な熱が産生して、身体が水分を失いやすい状態になってしまうことが原因とのことです。こういった場合は身体を冷やす食事が適していると考えます。たとえば、豚肉、魚などの比較的代謝産生熱が穏やかで、水分を補う食材を中心として食事を構成し、身体に熱を与えるラム肉などは使用しないようにするといった具合です。さらに、現在生活している国とそこの気候および風土を考慮し、蛋白質、炭水化物、脂肪の含有率を決定していきます。

犬の手作り食に添加される場合の多い、カルシウムサプリメントについては、従来推奨されてきた「ボーンミールパウダー」は、様々な重金属が含有されているため食事への添加は不適切であるとし、カルシウム源はできるだけ、カルシウムを多く含む海草、牛乳、緑黄色野菜からの摂取を薦めています。かねがねその添加量に疑問を持っていましたが、彼も同様な考えでした。
 混合食については、望ましい形ではないとしながらも、それがオーナーのできるベストな食事形態であるならば、鶏卵や新鮮な野菜との混合が好ましいとのことでした。
 以前から気になっていた適性エネルギー量の設定に関しては、そもそもそれは人間の食料となる「牛、豚、鶏」に対して必要なものであり、個体差の大きな犬たちに同じエネルギー量の適応は難しいとの見解でした。さらに食用動物と犬とのライフスパンを考え合わせる納得できます。但し、基準値の設定がないと現在では不足よりも過剰による健康障害を引き起こす可能性が高いため、やはり、基準値の把握をした上での、飼い主による調整が必要だと感じました。
 そのほかにも行動異常と病態の関係、脈診や舌診など興味深い話がたくさんありました。
どれも食事が非常に重要な位置を占め、治療にかかわっていることが大変勉強になり、また、喜ばしく思いました。日本ではまだ獣医師との連携プレーが難しいのが現状ですが、今回の訪問はその可能性を示唆するようなそんな旅でした。

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