生活の質を向上するために

 先日花屋さんへ行ったときのこと、茶の間の入り口からマルチーズが顔を出し、かわいい声でほえ始めました。飼い主様が「もうすぐよ、今はいいけどね」というやいなや、ワンワンという声はいつの間にか、コホコホというせき混じりの声に変わっていました。
  「心臓ですか?」と伺うと、「そうなの、ほら年取るとね、人間も心臓肥大するじゃない。もう10歳過ぎてるからねぇ、しょうがないのよ。今は薬を飲んでるんだけどね」とあっけらかんとした様子。そばではお孫さんが、そのマルチーズの行く手を阻むように戸を閉めたり、開いたりノノ.。
  「え〜それでいいの〜?」と内心思いながらも「お大事にー」とその場を去りました。「高齢」だという理由だけで、「仕方がない」のでしょうか?愛犬の「生活の質」はこれ以上向上できないのでしょうか?どんなアプローチが飼い主としてできるのかを考えてみました。

 心臓は全身に血液を送るために、収縮と拡張を繰り返すポンプの役割をする大きな筋肉の塊です。鶏のレバーをスライスして中をよく見てみると筋肉の層が見えますよね。あんな感じです。心臓疾患とは、工場に例えれば、全く稼動しなくなるまで、故障した箇所をだましだまし使っていくようなものです。一般的には化学の力、つまり投薬によりその働きを継続させます。
  しかしそれも時間の問題。さらに故障部位にこれ以上の負担をかけないようにするために、他の働きをサポートするためには、根本的な工場を動かす燃料の質、つまり栄養の質と構成の再チェックが必要です。たんぱく質、脂肪、炭水化物の質とバランスが固体に適しているのかが重要です。特に、高齢になると肥満を避けるために低脂肪食に切り替える傾向がありますが、脂肪は生体を調整する各種ホルモンの産生に重要な役割を果たすため、必要量の摂取が必須です。またエネルギーバランスを調整するための高炭水化物食は、血糖をコントロールするインスリンを分泌する、すい臓に負担をかける可能性があるため不適切です。また、これ以上ポンプ機能に負担をかけないようにするには低ナトリウム食にしなければなりません。心臓疾患になり、運動量が減ると筋肉量も低下し、それに比例して消化能も低下してきます。そのため消化吸収がよく、嗜好性が高いことも大切なポイントです。
  そして栄養をサポートするサプリメントの選択です。 心臓疾患用の処方食では心臓の働きを助けるタウリンやL−カルニチンを添加していますが、手作り食では、基本食の栄養をサポートする総合ビタミン/ミネラルのほかに、心臓機能をサポートするためコエンザイムQ10(CoQ10)を利用します。CoQ10は体内の細胞のいたるところに存在する補酵素で、強力な抗酸化作用がある上に、原動力である体内エネルギーの産生率を上げる働きがあります。さらに、心臓疾患で使用される他の薬と拮抗することもなく、そのもの自体の副作用もないからです。サプリメントの選択にあたっては、β-カロテンのように肝臓で代謝合成されるため、血液浄化などの肝臓での他の働きを遅らせる可能性がある場合があるので、できるだけ現状を維持、改善し、マイナスの要素がないものを探すようにします。
 さらに、環境面でのサポートも大切です。ストレスは細胞の酸化を促進するため、体は不必要な細胞を排泄し、新しい細胞を作るためにより多くの働きを要求されます。一方で加齢によりその働きは低下してくるので、できるだけストレスが少ない環境でゆっくりと過ごせるようにしてあげたいものです。また、適度な紫外線はホルモンバランスを整えるので、暖かい時間帯に可能であれば短時間のお散歩もさせてあげたいものです。

 既成概念にこだわらず、知識と工夫で愛犬の寿命を向上させてあげられるのはあなたです。

一覧ページへ戻る