学会誌 1999年

日本獣医師会雑誌 vol.52 Suppl.1999 臨時増刊号

●若齢犬に認められた皮膚型リンパ腫の一例
研究者:田村一朗 藤田桂一 田村真人 長屋美千代 田村 優 花田幸子 山村穂積 平田雅彦 エステル・ノリエ・クロトビ 酒井健夫

●犬の好酸球肺浸潤(PIF)症候群の2例
研究者:迫本真由美 高野橋麻子 藤原俊介 石川 理 石川理恵 古川修治 山村穂積 松木直章 西村亮平 小野憲一郎 長谷川篤彦 亘 敏広 辻本 元

●猫白血病ウイルス感染症400例の臨床所見
研究者:下田哲也 白永伸行 真下忠久 名倉義冶 湯地堅二

日本獣医師会雑誌 vol.52 No.4

●雄犬尿道結石症の超音波チップによる改善(日獣会誌 52246〜249 1999)
研究者:田村真人 藤田桂一 戸野倉雅美 長屋美千代 田村一郎 岡村優 花田幸子 山村穂積 酒井健夫

 頻回の排尿姿勢、赤色尿、尿量減少あるいは尿閉を主訴とした雄犬(5〜10歳)3例について、尿検査、X線検査および超音波検査により尿道結石により尿道閉塞と診断した。外科的侵襲を軽減させるべく、尿道切開を行わず、超音波チップを外尿道口から挿入して結石を破壊したところ尿道閉塞は改善され、予後は良好であった。


日本獣医師会雑誌 vol.51 No.12

●猫の回腸大顆粒リンパ腫の1例(日本獣医師会雑誌 vol.51 No.12)
研究者:長屋美千代、藤田桂一、戸野倉雅美、田村一郎、田村真人、岡村優、花田幸子、山村穂積、酒井健夫

 食欲不振と削痩を主訴とした猫(雑種、雄、9歳)で、触診により腹腔内に腫瘤(径約4cm)を認め、X線検査により局所腸管の右側上方への変異と腸管内ガス貯留が認められた。開腹により、腸管膜リンパ節腫大と回腸(2カ所)に硬い腫瘤を認め、腸管膜リンパ節を含む小腸の広範な切除を行い、病理組織学的にglobule leukocyte tumor(GL腫瘍)による腸閉塞と診断された。術後の経過は一時期順調であったが、術後5ヶ月に腹水貯留を認め、術後6ヶ月に死亡した。


関東地区獣医師大会 日本小動物獣医学会(関東)

●老齢犬に認められた皮膚型リンパ腫の1症例(於:東地区獣医師大会 日本小動物獣医学会(関東))
研究者:田村一郎 藤田桂一 田村真人 長屋美千代 岡村優 花田幸子 山村穂積 平田雅彦 エステルノリエクロトビ 酒井健夫 フジタ動物病院・埼玉県 北川動物病院・東京都 日本獣医畜産大学獣医畜産学部 日本大学生物資源科学部

はじめに:リンパ腫はリンパ組織から発生する悪性腫瘍であり、その発生部位によって種々の臨床症状を呈し、最終的には患蓄が死亡する疾病である。今回、2歳齢の若齢犬において比較的進行の速い皮膚型リンパ腫に遭遇したので、臨床経過および病理組織学的検査の結果について報告する。

症例:2歳齢の雄の雑種犬であり、2週間前から体幹背部、腹部の皮膚表面に腫瘤を認めるとの主訴で来院した。一般臨床検査において皮膚表面に直径2〜4cmの赤紫色の腫瘤を多数認め、一般血液検査において白血球数の増加がみられたが、その他の症状は認められなかった。皮膚表面の腫瘤の細胞学的検査を行ったところ、皮膚型リンパ腫の可能性が高いと診断された。1週間後の再来院時に実施した一般血液検査では著変は認められなかった。しかし病理組織学検査および免疫組織科学染色、表面抗原マーカーの検索等の検査もあわせて実施したところ、B細胞由来の皮膚型リンパ腫であると判断された。本症例は科学料療法は実施せず90日目に体表面リンパ腫の著しい炎症および、元気食欲の低下、下痢、嘔吐を認めたため、飼い主の強い希望により安楽死を行った。考察:皮膚型リンパ腫は若齢犬では発生が希であるといわれ、本症例は2歳齢という比較的若齢であり、化学療法は行わなかったが、非常に進行の速いリンパ腫であった。犬の化学療法は近年急速に発達し、多中心型リンパ腫などでは長期生存も期待できるようになってきたが、皮膚型リンパ腫も含め他のタイプのリンパ腫では同じB細胞由来でありながら予後不良であるとされている。今回、本症例において化学療法までは実施できなかったが、病理組織学検査だけでなく、その他に免疫組織科学染色、細胞科学染色、表面抗原マーカーの検索等を実施し腫瘍細胞の特徴を詳細に検討できたということは、今後の皮膚型リンパ腫における治療法を確立する上での貴重な資料であると思われる。今後、皮膚型リンパ腫を含め予後不良とされているリンパ腫でも、正確な予後の判断および治療法が実証されることを期待する。


日本獣医師会雑誌 vol.51 臨時増刊号

●猫歯肉口内炎の発生状況
研究者:藤田桂一 戸野倉雅美 田村一朗 長屋美千代 田村真人 山村穂積 酒井健夫

●猫消化管に発現したGlobule leukocyte tumorの1症例
研究者:長屋美千代 藤田桂一 田村一朗 田村真人 戸野倉雅美 山村穂積 酒井健夫

●家族制皮膚筋炎の成犬発症がみられたシェルティーの一家系
研究者:奥村順子 三枝早苗 岩崎利郎

●重度の皮下出血をともなった犬のリンパ腫の1例
研究者:真下忠久 白永伸行 下田哲也 山県浩海

●肺転移が認められた犬の眼球内黒色腫の1例
研究者:白永伸行 真下忠久 下田哲也

●血液疾患におけるLDHアイソザイムの臨床病理学的意義
研究者:下田哲也 白永伸行 真下忠久

日本獣医師会雑誌 vol.51 No.6

●猫の尿道断裂に対するSpatulated end-to-end変法の応用
研究者:藤田桂一、酒井健夫、戸野倉雅美、長屋美千代、田村一郎、田村真人、岡村優、安田真知子、鯉江洋、山村穂積

 頻回の嘔吐と下痢を主訴とした猫(雄、11ヶ月齢)の陰茎先端にうっ血を認め、血液化学検査でBUN、Cre、TーBil、ASTおよびALTの上昇、尿検査では重度の潜血がみられた。腹部X線検査および静脈性尿路造影検査によって尿道断裂と診断、開腹して尿道断裂部にSpaatulated end-to-end 吻合法の変法を応用したところ、症状は改善されて予後良好であった。


日本獣医師会雑誌 vol.51 No.4

●異物性穿孔および閉塞のための小腸を広範囲切除した犬の一例
研究者:戸野倉雅美、藤田桂一、田村一郎、長屋美千代、田村真人、岡村優、安田真知子、山村穂積、酒井健夫

 一週間前から元気消失、食欲低下および嘔吐を主訴としたビーグル犬(1歳、雄)のX線検査で、針状異物による腸穿孔および腸閉塞が疑われ、試験開腹により縫い針の小腸穿孔戸紐状異物停滞による腸管のアコーディオン状停滞閉塞を認めた。患部腸壁の変性・壊死が著しかったことから、縫い針摘出と共に穿孔・閉塞部病巣を含む小腸約1mを切除した。術後に持続性下痢あるいは栄養不良をともなう短腸症候群は認められず、予後は良好であった。


日本獣医師会雑誌 vol.51 No.3

●全顎抜歯を行った歯肉口内炎猫の2例
研究者:藤田桂一、酒井健夫、戸野倉雅美、田村真人、長屋美千代、田村一郎、山村穂積


日本大学獣医学会誌(Twig's)52.Vol45. 1999

●イヌパルボウイルス感染症の疫学とその臨床応用
研究者:橋本志津、古川修治、三枝早苗、山村穂積、酒井健夫、竹内 啓

 21頭の犬飼育集団中、4頭に犬パルボウイルス感染症が発生した。この原因は、新たに導入された犬が関与したものと判断されたので、発症の経緯を追跡調査し、臨床的対策について検討した。
 犬飼育集団は、4ヶ月齢から8歳齢間での21頭で構成されており、室内で個別飼育されていた。本飼育集団ではそれまでにイヌパルボウイルス感染による発症例はなく、飼育集団内で繁殖を行ってきたが、ワクチン接種歴不明のジャックラッセルテリアの子犬3頭を導入した7日後に、生後16週から40週齢のミニチュアダックスフンドの子犬4頭に下痢、嘔吐の症状がみられた。本症例についてイヌパルボウイルス簡易抗原検出キットを用いたところ、陽性と確定診断したので治療を開始した。同時に発症しなかった犬には、ワクチンを接種し、イヌパルボウイルス感染症に対するHI抗体価を経時的に測定した。
 抗体価の経時的推移パターンによって21頭は5つのグループに分類された。グループ1は発症後死亡した2頭、グループ2は発症後回復した2頭、グループ3はワクチン接種前から抗体かが1000倍以上を示した5頭、グループ4はワクチン接種後抗体かが1000以上を示した1頭、およびグループ5はワクチン効果によって抗体価が128倍から512倍に推移した11頭であった。ワクチン接種前から高い抗体価を示していたグループ3を除いた全ての未発症例で、抗体価はワクチン接種後に上昇し、ワクチン効果が認められた。一方、発症後に回復した犬では、抗体価の急激な上昇が認められたので、感染抗体と判断された。3頭のジャックラッセルテリアの内1頭は、グループ3に属しワクチン接種前の導入時から高い抗体価を示したため、導入前にイヌパルボウイルスに感染し、ウイルス排泄が示唆された。
 ワクチン効果としてのウイルスの感染防御は32倍から64倍の抗体価が必要とされているので、グループ3では、ワクチン接種の影響より、過去の自然感染が推測された。また、グループ4でも自然感染が示唆された。グループ5では、ワクチン効果により、抗体価が推移したことが明らかとなったが、少なくとも接種後8ヶ月以上はイヌパルボウイルスの感染防御が期待できると判断された。本飼育集団では、子犬のワクチン接種後は生後10週から18週までに2回実施していたが、4頭が発症し、しかも抗体価が8倍以下の犬が認められたことは、ワクチンおよびワクチンプログラムの設定に新たな課題が提示された。特に、ワクチンを接種している親犬から娩出された子犬では、移行抗体の下降は比較的遅いと考えられることを考慮すると、子犬をワクチン接種は、移行抗体の消失や親犬のワクチン接種状況を考慮して、個々にプログラムを組み立てることが望ましいと思われた。
 なお本症例では、発症症状に応じて輸液、抗生剤投与、インターフェロン投与および輸血などを選択実施した。その結果、発症4例のうち早期診断が可能であった2例が回復した。治療効果を比較すると、イヌパルボウイルス感染症に対するネコインターフェロンの投与は、白血球減少を示す以前の感染初期で有効であることが判断された。


 

日本動物看護学会誌(Animal Nursing)Vol.3、Vol4 1999

●腸吻合を施した猫の食事管理の一例
研究者:小中裕子 奈良なぎさ 橋本志津 浅沼秀樹 弓削田直子 三枝早苗  山村穂積


J. Vet. Med. Sci. 59 (4)293-295

●腎動脈部分遮断により治癒した特発性腎出血の犬の一例 
研究者:三品美夏 渡邊俊文 弓削田直子  前田浩人 藤井康一 若尾義人 高橋 貢 山村穂積  

 特発性腎出血が疑われる犬に対し試験的開腹を行い,左右の尿管にカテーテルを挿入したところ左腎からの出血を確認した.さらに左側の腎動脈の腹枝および背枝に対し血行遮断を行ったところ,腎動脈の背枝を血行遮断したときのみ血尿が消失したことから,腎出血の部位は腎動脈青枝の支配領域であると特定された.本症例に対し左側腎動脈の背枝の結紮術を行ったところ腎出血は消失し、術後1年後も良好に経過している。