小型犬と猫の骨折による内固定法

小型犬と猫の骨折による内固定法

第36回日本大学獣医学会 平成10年9月27日
研究者:山村穂積

1.骨盤骨折

(1)仙腸関節の分離または骨折
仙腸関節の分離や脱臼、そして仙骨を含むの骨折やそれらの併発などが起こると、単一ではなく他の部位の骨盤骨折を起こし、腸骨は仙骨に対して前方背側に変位する。
(手術方法)
切開: 腸骨が触れる前方から背側腸骨棘に沿って腸骨体まで皮膚を切開する。皮下織も同様に切開をし、腸骨棘を露出する。腸骨棘の中殿筋起始部を腸骨棘尾側まで切開剥離し、剥離した中殿筋を腸骨腹側方向へ牽引すると共に、腸骨翼から腸骨体前側まで切開剥離する。このとき腸骨体前側背部に、内側より外側に向けて前殿動脈が走っているので切らないように注意をする。もしも切断してしまった場合には出血部の腸骨内側に指を入れ圧迫止血をする。
 仙骨と腸骨の骨折面を確認し骨折部位を合わせるために、その部位を露出する必要があるので腸骨内側面の筋肉が切断されていない場合には切開する。腸骨翼に骨把持鉗子を利用し後ろ下方に力を加え骨折面を整復する。このとき、あまり移動しないようであれば、各切開予定部位の筋肉の剥離が少ないことが考えられるので、再度の筋肉剥離をもう少し大きく行う。
 骨折面を確認しないで固定を行うと、きちっとした位置に合わせることがなかなかできない場合が多くかえって手間がかかってしまう。
固定: 腸骨翼はラグスクリューにより固定する。腸骨翼の外側よりラグスクリューを打つが、合わせてしまうと内側にある骨折面は見えないので、あらかじめ内側面を確認し骨折面を合わせ、腸骨翼の外側のどの部分にラグスクリューを打てば仙骨に入るかを見当をつける。そのおよその位置は腸骨翼の後方1/4、腸骨の背側と腹側の中央部で、腸骨翼の一番凹んだ部位になる。関節骨折面を合わせ、腸骨翼から仙骨体までキルシュナー・ピンを通し、一時的に固定し、骨折面がきちっと合っているか確認する。そのすぐ前方、またはそばにラグスクリューを挿入設置する。2本目のラグスクリューを一本目の後方、またはそのそばに打ちラグスクリューをしっかりと固定する。キルシュナー・ピンを除去する。もしも、犬が小さすぎて2本のラグスクリューを打つ場所が無い場合にはキルシュナー・ピンをそのまま固定に利用してにしても良い。またはキルシュナー・ピンを抜いてその位置にラグスクリューを挿入する。いずれにしても一本のラグスクリューでは固定部位が回転をしてしまい骨折部位がずれてしまうので、その回転を防ぐために2本以上の固定が必要となる。
縫合: 中殿筋を元の正しい位置に戻し、筋膜を縫合する。皮下組織、皮膚を縫合し終了する。

(2)腸骨体骨折
腸骨骨折は骨盤骨折の中では最も多く、骨プレート固定ができ容易に安定化することができる。
(手術方法)
切開: 皮膚切開は腸骨前側縁上部から、腸骨の背側縁を通り大転子まで進め、さらに大腿骨方向にカーブさせる。皮下も同様に切開する。腸骨腹側縁の筋肉間を分離するが、腸骨の骨折により正常の位置より変位していることがある。通常は中殿筋を背側に、大腿筋膜張筋を腹側に、縫工筋を前方に分ける。
 腸骨翼部から中殿筋の骨膜付着部を切開剥離し腸骨体後方に行い骨折部を露出する。剥離した中殿筋は背側に牽引し、骨折部位により深殿筋まで剥離する。骨折部は通常内側に変位しているので、骨梃子などを使って持ち上げ、整復用の骨把持鉗子やタオル鉗子を使用し骨折部分を整復した状態で固定保持しておく。
固定: 骨プレートの最低骨折部の片方にスクリューが2本以上打てるサイズを選び、腸骨の曲線に合わせ、プレートベンダーで曲げる。ついでスクリューで固定する。
縫合: 深殿筋、中殿筋を元の位置に戻し、大腿筋膜張筋、縫工筋筋膜を縫合し、皮下織と皮膚を通常通り縫合閉鎖し終了する。

(3)寛骨臼骨折
寛骨臼の骨折は、大型犬では骨折の形状により固定方法が違うが、小型犬では大きな問題とはならない。しかし、関節面を正確に整復、固定する事は必要である。股関節へのアプローチ法は数多くある。
(手術方法)
切開: 皮膚切開を腸骨の中央部背側縁から大転子上部を通り大腿部大腿骨後面近位までカーブをつけ切開する。大腿二頭筋前縁に沿って皮下、殿筋膜、大腿筋膜張筋を切開する。大腿二頭筋を後方に大腿筋膜張筋を前方に牽引すると、大転子と浅殿筋が確認できる。浅殿筋の大転子付着部付近の終始部腱を切断し、背側に牽引する。ついで中殿筋の終始付着部、深殿筋の付着部の各腱部を切断すると共に、骨膜部を剥離する。寛骨臼の背側の骨折部が露出する。寛骨臼部の後方に座骨神経があり、傷つけないように確認し保護する。後部骨折部は骨把持鉗子を用いて整復する。
固定: 骨折部のプレート固定は寛骨臼の背側面に行うが、骨プレートを寛骨臼が整復固定されるように曲げ、片側に2本以上のスクリュウが打てるようにする。プレートは捻るような形にし、骨折部後方に2本のスクリュウを先に挿入し、次に腸骨後方を固定すると骨折部の調整固定が行いやすい場合がある。
縫合: 関節包がわかれば縫合するが、無理に縫合する必要はない。切断した深殿筋、中殿筋、浅殿筋の腱部を吸収糸で合わせ縫合し形のごとく閉鎖する。

2.長骨骨折

(1)上腕骨
上腕骨の骨折は外側よりの切開でほとんどの骨折を整復、固定できる。
(手術方法)
切開: 上腕骨幹中央部の骨折は、上腕の長さに応じて皮膚切開を行います。切開は上腕骨上部から骨幹にそって肘間接の近くまで行う。皮下織も同様の線上で行う。上腕筋膜を三頭筋膜付近で切開する。橈骨神経枝の位置を確認し保護する。三頭筋を後方にし上腕筋と橈骨神経を露出する。骨から上腕筋を剥離し後方に牽引する。それにより近位部の上腕骨を露出でき、遠位部はその内側に変異しているので、付着筋肉を切開することで骨が露出する。
固定: 上腕骨を前方に牽引し、上腕骨の前面か外側面にプレートを設置する。プレートを設置する場合、骨把持鉗子などでしっかりと整復した状態で保持し、プレートをあてたおきプレート固定をする。
縫合: 筋膜を縫合し、皮下、皮膚を常法で切開部を閉鎖する。

(2)橈骨、尺骨遠位端骨折
橈骨、尺骨野骨折で遠位端骨折は、1年未満のトイ種の犬が殆どであり、治療方法は橈骨の固定で問題は起こらない。アプローチは、前外側、前内側とあるが、橈骨の固定のみであれば前外側よりの切開で良好に行うことができる。
(手術方法)
切開: 橈骨遠位部の外側の前面を皮膚切開する。皮下識の分離をするときにできるだけ橈側皮静脈を傷つけないようにする。橈側手根伸筋や総指伸筋の間の筋膜を橈骨に沿って縦に切開し分離する。これにより骨折部が露出することができる。
固定: 骨折を整復し骨保持鉗子を用いてプレートとともに保持する。この時プレートの形状を骨の曲りに合わせる。橈骨遠位部では、外転筋の下にプレートを挿入設置する。
縫合: 橈側皮静脈に気をつけながら橈側手根伸筋と総指伸筋の間の筋膜をよせ縫合する。プレートを可能な限り筋肉や皮下組織で覆い常法道りに縫合する。

(3)大腿骨骨折
大腿骨へは外側切開で殆どの場合適応できる。
(手術方法) 
切開: 大腿部の外側面前方1/3の部位で、大転子から大腿骨外側顆まで大腿骨の曲りに沿うように少しカーブさせ皮膚切開をする。皮下織も同様に切開を加える。大腿二頭筋前側の筋膜を切開し、大腿二頭筋と外側広筋を前後に押し広げると骨折部の大腿骨が露出できる。骨折部が近位部の場合には、外側広筋の起始部を剥離する。骨折部を整復するには大腿骨後面にある内転筋やその他の筋肉を骨より剥離する。
固定: 骨折部を露出し余分な組織や血腫を除去し、正常な位置になるように骨保持鉗子やラグスクリュー、丈夫な縫合糸などで一時的に整復する。できるだけ長いプレートを大腿骨外側面に合うように曲げる。長いプレートを選ぶことによりスクリューの挿入する数が多くなる。内固定で大腿骨をしっかり固定するまでプレートと共に骨保持鉗子で保持しておく。スクリューを順次しっかりと締め直し終了する。
縫合: 切開した筋膜を縫合し、皮下、皮膚と縫合して終了する。

(4)大腿骨遠位部と骨顆骨折
大腿骨骨端線の骨折は、大腿骨の切開線を下方に下げ、また膝関節への切開を行う。幼犬や幼猫の認められる大腿骨遠位端軟骨の骨折の安定化においても内固定が応用できる。
(手術方法) 
切開: 大腿骨中央部の前外側面から遠位方向に進め、膝関節の外側上部を通り、脛骨粗面遠位部まで皮膚切開する。皮下織、大腿二頭筋前側の筋膜を切開する。膝関節を切開する。外側広筋と大腿二頭筋を引き分けると、大腿骨顆上部と骨幹部が露出できる。膝蓋骨を内方に脱臼させると、大腿骨関節面、大腿骨顆、大腿骨顆上部が露出できる。
固定: 骨折面の余分な組織を除去し、骨折部を正確に整復する。この部位の骨折は、大腿骨骨幹部と違い、力は大きく加わらないので、回転を押さえるようにすることが重要である。ミニプレートとスクリューでこの回転が押さえられる方向で固定する。
縫合: 膝蓋骨の内方脱臼が起こる野を防ぐため、膝関節の関節包をしっかりと縫合する。ついで大腿筋膜、皮下織、皮膚を常法道りに縫合する。

(5)粉砕骨折
粉砕骨折の固定方法は、各骨折部位により違いがあるが、基本的にはできるだけ正常の位置によせ、プレートが前面や側面に固定できず、後方でのプレート固定でも手術後のケアをきちっとすることにより成功する。たとえ単骨折でもケアをいいかげんに行えば失敗に終わることがありうる。特に骨折手術の失敗の大部分は大腿骨骨折であるので、その後のケアにより左右されることが重要である。