猫下部尿路疾患(猫泌尿器症候群)LUTD(FUS)

猫下部尿路疾患(猫泌尿器症候群)

研究者:山村穂積

はじめに

 雄猫の起こる疾患で、古くは猫の尿閉症や尿石症と呼称され、排尿困難、尿道閉塞、血尿が主な症状であり、陰茎の先端に白い砂状物を多く含んだ栓状物が閉塞し、雄猫はしきりに排尿姿勢をとり、大声でうめくなど非常に苦しそうな行動をとる。また、尿道閉塞の解除が出来ない場合には、なすすべが無く死の転帰となってしまう。この疾患は、1958年頃はただ単に雄猫の尿閉または尿道閉塞あるいは尿道結石として認識されていた[1]。しかし、この尿道閉塞を除外すれば、血尿や膀胱炎など、雌猫にも類似の症状が起こることが判り、猫泌尿器症候群(FelineUrologicalSyndrome:以下FUS)として認識され普及した。人における膀胱や尿道結石は”ヒポクラテスの医の誓い”にも記されているように、紀元前から問題とされていたことと思うが、この猫泌尿器症候群については、人泌尿器症候群や犬泌尿器症候群といったものが無いために研究が遅れたものと解釈している。しかし、おそらく古くから雄猫に起こる尿道閉塞として知られていたのではないかと推測される。このFUSの定義付けは極めて広く、文献的には血尿、排尿困難、頻尿の症状があれば尿道閉塞の有無にかかわらずFUSと定義している[2]。FUSと定義付けされてからは疫学的調査や原因追究などあらゆる方面からの検討がされてきている。本症は、Osbornが日本で公演し、またネコの尿路系疾患に関するシンポジウムで広く知られるようになった[3]。本症における雄猫に対する尿閉は、生命をおびやかすために、尿閉を解除させる方法がいろいろの方面から検討され、なかでも尿の排出を妨げる砂状物があっても陰茎部に尿閉が起こらないようにする外科的な方法がGale[4]、Christensen [5]、Carbon [6]、そして Wilson-Harrison[7]により報告された。日本では山田らにより一時的にビニールチューブを膀胱切開により留置し腹部の皮膚に出し、尿をそのチューブから排出させる方法が報告され[8]、谷沢らは陰茎先端から超音波スケーラーを尿道内に挿入し、一時的に解除する方法を報告している[9]。しかし、繰り返される再発により、尿道の損傷や感染が合併し、陰茎尿道の狭窄症のようになる後遺症が問題となった。このため繰り返される尿道閉塞には会陰尿道口形成術を行い、再度の尿道閉塞が起きないようにする試みが日本でも行われるようになり、Wilson-Harrison法を始め、その変法による外科的方法が普及している[10〜17]。また、発症させる因子も各方面から研究され、複数の発症危険因子や処方食などの給餌により発症を軽減させることが出来るようになってきている。また、研究が進むにつれこのFUSを余り広い意味で使うのではなく、特発性の下部尿路疾患に限定するような傾向になってきていることから、最近では下部尿路疾患(LowerUrinary Tract Disease : 以下LUTD)と変化してきている。

FUSからLUTDへの定義の変化

 FUSの定義は問題点が多く様々な方向から論議されてきている。例えば、非外傷性血尿、腫瘍や先天性奇形に起因しない排尿困難、少量の頻回は排尿、非外傷性の完全または不完全尿道閉塞の一つ以上の症状がみられる疾患として[18]、また、無尿、排尿困難、血尿、頻尿などの症状が、単独あるいは同時にみられた猫の包括的な熟語として[19]、猫の尿石症としてとらえ、尿路系における結石形成や形成傾向、砂状結石、凝血塊、粘液、細胞片、これらの複合物により尿閉が発生するものとして[20]、尿石症に尿道炎、膀胱炎などの合併症で雄猫は通常尿道閉塞を伴うものとして[21]など様々の定義付けがされている。これらの定義は、臨床症状や、解剖学的部位、形態的変化など、またそれらの組み合わせなどによるもので種々雑多であり一定しない。いずれにしても共通している意味としては、猫のLUTDということである。そこでこれらの検討から、消去法をもとにして定義を決め、猫の血尿および排尿障害が明らかに細菌性膀胱炎、結石症、外傷に起因しているものを除くことが提唱された。そこでFUSとは猫の特発生LUTDに限定されてきた[22]。しかし、臨床的にはFUSもLUTDいずれも一つの原因によるものばかりではなく複数の原因により発症することから同義語であるように理解できる。Osbornらは基礎的な原因により治療法や予防法が異なることから同義語として使用することを提唱し、そして原因追究をすることの必要性を強調している[23]。ここでFUS尿石症、尿路感染症、解剖学的な欠陥、新生物、神経筋障害などの下部尿路疾患の考えられる原因がすべて消去され適切な診断が出来ない特発性の下部尿路疾患として定義されるようになった。したがって最近の傾向はFUSでないもの、すなわち原因がどれであるかに変わってきていることから、アメリカでは1984年頃よりLUTDとして説明されるようになり始め、やがてFUSという言葉は使用されなくなるかもしれない。事実、尿のpHを酸性化させるための研究[24、25]や、尿の細菌感染[26]に関する研究でははっきりとLUTDとしている。このような考えから特発性LUTDや原因別LUTDと変化して研究されていくことは明らかである。

FUSの発生率

 FUSの疫学的な発生率に関して、アメリカにおいては 0.60〜0.85% [27〜28]、イギリスでは0.52〜0.64%[2、29]で、年間発生率では低いが、平均寿命から考えると8.5%の猫が障害1回侵されることになる。また、別の報告では、動物病院に来る猫の4〜10%はFUSであると報告している[30]が、通常は 1〜 6%であることが示されている[31]。日本の発症率は動物病院で診断されたもので、2.2〜3.3%[32〜36]であり、これらはFUSの定義による分類のずれはあると思うが、アメリカにほぼ一致する点である。しかし、これらの数値は原因別に分類し、発症率を分けることによりまた違ってくると推測される。Osbornら[37]は、LUTDに分類される血尿、排尿困難を示している症例の中から、尿道閉塞 22%、結石21%、尿路感染のみ1%、尿路感染と結石の合併1%であり、54%は特発性と分類している。このような分類をしたものは日本の報告では見あたらない。
 Walkerら[2]はFUSの猫は対照群と比べドライフードを食べている、飲水量が少ない、運動量が少ない、家の中で生活をし排尿をするなどをあげている。品種による調査では、Willeberg[3]は、在来種や雑種よりも長毛種は危険度が高く、シャム猫は低いとしている。仲庭[36] のアンケート調査では、384例を品種別に分類し、在来種 150例(39%)、ペルシャ猫 109例 (28%)、雑種65例(17%)、シャム猫 49例(13%)、ヒマラヤン猫10例(3%)、ロシヤンブルー1例であるが、これは在来種が圧倒的に多く飼育されていることからこのような結果になったものと思われる。一般的には在来種、シャム猫を除くと確かに長毛種の危険度が高いとされているが、シャム猫の危険率が低いかといえば飼育頭数の割合が不明のため疑問がある。そして比較対照試験では雄猫がFUSの危険度が高いとされている。Lewis[30]の調査によれば、FUSは臨床症状は異なっているが雌雄両性に同じ頻度で発生すること、また発症年齢は1〜6歳までが80%以上を占めている。山村の調査[34]では初診時にFUSの診断基準を尿路閉塞の有無に関係なく、膀胱内や尿道の出血性炎症が考えられる症状を示した猫を含め分類した結果、雌雄の割合は55対45であった。このことから、雄の割合が多少多いが、FUSの危険度は雌雄ほぼ同様の頻度で発症すると考える。またFUSを発症した猫の去勢の有無については、FUS発症時の雌雄別分類から、雄39.3%、去勢雄15.2%、雌28.5%、避妊雌17.0%であった(fig.1)。延べ外来猫とFUS猫の雌雄別分類を比較した調査では、雄18.9%、去勢雄21.9%、雌18.1%、避妊雌41.1%であり(fig.2)、これをFUS発症例と延べ外来数を比較すると、雄では 39.3 :18.9、去勢雄15.2 : 21.9、雌では 28.5 :18.1、避妊雌 17.0 :41.1であり、去勢していない完全な雄と雌の方が明らかに危険度が高い結果となった。Willeberg[3]によると去勢雄が危険度が高いと報告しており、山村の調査結果と大きな違いとなった。この点については、東京地区における猫の飼育状態や、狭い住居、それによる運動不足などによる肥満、そして共稼ぎにより留守がちになりドライフードを常時与えてあるなどの誘発因子が組合わさり、個体の危険度を高めていることが考えられ、東京地区という世界でも珍しい特殊な諸条件や飼育環境から雌雄差や去勢差には余り関係が無くなっているということも推察される。FUS発症時の年齢別の分類では1〜6歳が71.5%を示し(fig.3)、これらはLewis[30]の報告に一致しているが、それを雌雄別に分類してみると、3〜5歳では雄が多く発症しており、この年齢層では雄の危険度が雌より高い結果となった(fig.4)。いずれにしても種々の誘発因子の組み合わせがFUSの発症率を高めていることは間違いない。

LUTDの発症を増大させる因子

 FUSの誘発因子として、食物、感染因子、運動不足、肥満、去勢の有無、遺伝などが考えられている。これらの誘発因子の中で、尿石症や尿道閉塞は食物因子により誘発される割合が特に高い。初期の研究ではRichら[38]により、高マグネシウム(0.75〜1%)高リン(乾物の1.6%)の食餌が結晶性物質や尿道閉塞を起こすとされた。その後、Lewisら[39]により尿結石形成にマグネシウムが関係することを裏付けた。またTatonら[40、41]は乾物中に0.37%のマグネシウムを含む食餌を与え形成された尿結石の組成を分析し、自然発症例と比較した結果、アンモニウムの含有量の違いがあることが判明した。その結果、塩化アンモニウムを食餌に添加し尿を酸性化させることにより尿石形成や尿道閉塞が大幅に抑制されるようになった。また、RichとKirk[42]は、pH6.5以下ではごく少量のストラバイト結晶の検出しかできなかったことから、尿中ストラバイト結晶の出現量とpHの間に相関関係があるとした。このことから尿の酸性化に関する研究が行われるようになっていった。そのことは理論的にも実験的にも尿のpHは重要である裏付けをBuffingtonら[43]、Tantonら[41]、Tarttelin[44]が立証している。また、Buffingtonら[43]は、マグネシウムを供給するなかで、とくに酸化マグネシウムを使用すると尿はアルカリ性となり、ストラバイトが形成されやすくなる。その結果、ストラバイト結晶形成には尿のpHが関与しており、尿pHを6.5以下に維持するように食餌を調整すれば、ストラバイト結石の抑制に役立つことを報告した。Hamarら[45]の研究では、結石を形成させる食餌に4%の塩分を加えたがストラバイトの形成抑制には効果が無かったと述べているが、水分摂取量と尿量が尿結石形成に関係あるかはまだまだ不明の点がある。
 以下に食餌とLUTDの関係について述べる。1)、Lewis とMorris[46]らは、多くのドライフードを食べている猫にFUSの危険性が高いと報告している。ドライフードは水分のある通常の食餌に比べて、消化性やカロリー濃度が低い。したがって個体が必要とするカロリーを満たすためにより多く食べなければならない。その結果、ミネラル(マグネシウム)の取り込みの絶対量が増加する。それにより尿中へのミネラル排泄量が増加する。とくに食物中の高マグネシウム含量物(乾物中0.25%以上)をドライフードの形で与えると高い摂取量となり、ストラバイト結晶(リン酸アンモニウムマグネシウム)ができやすい。これらのドライフード摂取の繰り返しからストラバイト結晶形成が増大し、その結果LUTD移行への危険性が増大する。2)、水分代謝の関係では、ドライフードは水分含量が少ない。そこで、ドライフードを食べていることは総水分摂取量が減少することになる。その結果尿量低下が起こり、尿濃縮度が増大する。当然高濃縮尿では結晶が析出しやすくなる。さらに排尿回数が少なくなることにより膀胱内に細胞屑や結晶の塊ができやすくなり、それらが尿道内に入りプラグ形成を起こしやすくなることから、LUTDの危険性はより増大する。3)、前述のように尿のpHも大きく関係している。食物を食べることにより胃酸分泌が起こる。そして体液がアルカリ性となる結果、尿のpHを上昇させることとなる。このことは尿石症の発生要因としての食餌の給餌法が尿のpHの変化に大きく影響していることは明らかである。自由採食と定時採食の違いで、尿のpH値の間に大きな変化があることはわかっている[40、47]。また、尿中のストラバイト結晶は、アルカリ性尿中よりも酸性尿中でよく溶けることから、尿pHの平均値を下げることのできる食餌が注目されている。
 そこで尿の酸性化については、古くはFishler[1]がアルカリ尿であると尿中に細菌が増殖するので尿酸化剤を与え治療するとしているが、これは現在の尿の酸性化をはかる考えとは目的が違っていた。尿を酸性化させる薬剤として、Tarttlen[44]は塩化アンモニウムの投与を研究し、LloydとSullivan[48]がDLーメチオニンの有用性を広く研究し、その結果両薬剤の有効性が確認された。しかしこれら尿酸化剤は多量に投与することにより毒性を示すことがあるため慎重に投与する必要がある。例えばその一つとしてアシドーシスに注意しなければならない。酸性化剤の投与量を決め与える場合、必ず食餌と共に与え、食後数時間後の尿pHの測定をしアルカリの状態を観察する。この時点でアルカリの傾向が弱ければ、その後の尿は酸性に維持されると思ってよい。また、もともと食餌中に含まれている物質で代謝によって尿中へ排泄される酸イオンを形成する食物が尿pHに関与していることもある。尿のpHが高い、すなわち、アルカリ尿の場合に、尿のうっ滞、尿路感染(ウレアーゼ産生菌)、食後数時間などを考慮してFUSとの関係を考えなくてはならない。4)、消化率の関係では、ドライフードを始めとする消化の低い食事を与えると、食物の必要量が増大することによりマグネシウム摂取量が増大する。また消化の低い食餌は糞便量の増大から糞便中に体液中の水分を多量に取られてしまう。通常の糞便は70%の水分を含んでいるとされている。糞便量が増大することにより尿生成に利用される水分量が減少し、したがって尿量が減少する。そしてより高濃度の尿となり、LUTD発症の危険性が増大する。5)、食餌の給与法方も問題となる。自由採食と定時採食では、尿中のpHに大きな影響を与える。とくにドライフードは一日中与えてあることが多い。猫の習性から食餌がいつも与えてあると一日中少量ずつ何回にも分けて食べる。その結果、一日のうちの大半は尿pHが上昇していることになる。自由採食はアルカリ尿の持続の原因になることから注意をする必要がある。
 以上LUTD発症の危険性を増大する因子をまとめてみたが、これらどれか一つのみが要因であるとは考えられない。複数の因子により発症するものと考えられる。

LUTDの原因

 LUTDの原因として、単一の要因は特定されていないが、ウイルス、マイコプラズマ、細菌、尿石症などの関係が検討されている。
 ウイルス原因説では、古くは Rich と Fabricant[49]は、尿道閉塞にかかっている猫の尿を別の猫に投与し同様の症状の発症を起こさせている。また、Fabricant[50]は、1974年に細胞内在性ヘルペスウイルス(CAHV)を分離し同定を行った。これはSPF猫を使用し、カリシウイルスと組み合わせ接種試験を行った結果、尿道閉塞や膀胱炎が起こり、すべての猫の尿路組織からCAHVが分離された。しかし、自然発生例からウイルスの分離や、実験的にFUSの猫の尿を用い他の猫に接種感染実験で感染を実証することができなかったという事実もある[51、52]。これらのことからウイルス原因説は支持されておらず、ウイルスが自然発生のFUSの原因になる可能性はほとんど無いことが示された。しかし、その後Osbornら[37]は、電子顕微鏡的に尿道プラグにウイルス粒子の存在を明らかにし、また、成熟雄猫にCAHVの持続感染に成功している[53、54]。このウイルス説に関してはまだまだ研究の余地があり、FUSの感染要因としては認識されていない。というのは、多頭飼育をしている猫舎の場合でも、FUSの発症が増加する傾向は無いようである。しかし、もしウイルスが原因であれば治療方法は無いと思ってよい。
 マイコプラズマとLUTDとの関係は、ヒトでの関連で研究されているものと思われるが、FUSの尿からマイコプラズマの分離が出来た報告は見あたらない。マイコプラズマやウレアプラズマの分離には特殊な培養条件を要し、今後の研究が待たれるところである。
 LUTDと細菌の関係では、通常のFUSは細菌学的には無菌であり、一時的原因としてはみられないとされている[51、55]。会陰尿道口形成術後にすぐに細菌感染が起きてしまうと尿路疾患を複雑化し持続化することが多い[46、56〜58]。尿の細菌培養をする場合には、尿の採取方法により結果において差異が生じる。通常の膀胱穿刺では無菌であるが、尿道カテーテルによる採尿であると1ml中に100個の細菌を検出し、自然排尿では1ml中10,000個以上になることがあるとしている[59]。したがって尿の細菌培養をする場合には膀胱穿刺尿で行う必要がある。これらの結果から、FUSでもし尿の培養により尿路感染の存在が示唆される場合には、一般的には尿道カテーテルの挿入や留置などによる二次的なものであり、FUSの原因となる要素としては考えにくい。したがってLUTDの直接の治療法として多くの獣医師は抗生物質を投与しているが、導尿などによる二次感染防止の意味以外には必要があるかは論議されるところである。
 猫の尿石症は様々な種類のミネラルで構成されており、LUTDの原因として尿石症との関わりは深いと考えている。これは、尿中の結石原性晶質の過飽和による場合で糸球体濾過の増大から、尿細管分泌の増大が起こり、尿細管再吸収の減少などによる腎の晶質排泄の増加となる。すると尿細管による水分再吸収の増加とそれに続く尿の濃縮に伴う負の水分バランスが起こる。また、このときに結晶化を起こしやすい条件として尿pHが関係する。
 結晶核の形成は、尿路系での停留や尿中飽和状態の継続と結晶核の物理的特性により結晶核の成長が起こる。これら猫でみられる尿石症(結石)の種類は、通常、ストラバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム[60]、尿酸アンモニウム[61]などがある。これらの中でストラバイトが最も多く、尿結石の70%以上はストラバイトを含んでいる。次に多いのはシュウ酸カルシウムで10%を占めているとされ、またストラバイトの75〜80%が無菌性である[37]。しかし、二次性持続性血尿 [62] などがあるのでそれとの類症鑑別が必要なことはいうまでもない。
 また、尿道閉塞を起こす原因として尿道プラグは重要であり、Osbornら[37]によれば尿道プラグができたものには必ず尿道閉塞が起こっている。これは柔らかく、しなやかな砂状物質が膀胱内に溜まることにより、それが尿道に入り尿道の形に合わせた管状となり、砂状の栓になってしまうことにより生じると思われる。これが先に述べたウイルスとの関係があるかまだわかっていないようである。 この尿道プラグがストラバイトであれば、食餌との関係が重要であり長期治療に際し食餌療法が役に立ち、尿道プラグの形成を抑制できる。尿道プラグの形成は、去勢雄猫が危険度が高いとされている。その一つの理由として発情前に去勢した猫は、尿道の径が細いからとされていた。しかし、これはあまり関係が無く、陰茎先端の繊維性組織の増加によるものであるとされているので、去勢との関係はごく少しの危険因子があるのみと理解できる。

LUTDの臨床症状と診断

 LUTDの診断基準はみあたらない。年齢的には全ての年齢で発症するが、とくに多い年齢層は1〜6歳である。雌雄ほぼ同等に発症するが、尿道閉塞はほとんど雄であり、雌ではきわめて少ない。長毛種に危険率が高いことはすでに述べている。
 尿道閉塞の起こった雄猫は、尿道プラグの閉塞の程度と時間によりその全身状態は左右される。したがって臨床症状は様々である。LUTDの主な症状は、排尿回数の増加、頻尿、排尿困難、排尿不能、トイレ以外などでの異常排尿動作、肉眼的血尿、生殖器を頻繁になめる、閉塞のある猫では奇声を発することもある。時には、排尿動作の繰り返しにより飼い主は便秘と間違える。膀胱の触診では膀胱壁は厚く感じられ、頻尿により尿がほとんど無いなどの初期症状がみられる。尿道閉塞を合併した場合は、食欲不振、元気消失、沈鬱、嘔吐、脱水、昏睡、発作、不整脈(高カリウム血症、代謝性アシドーシスによる)、堅いボールのような膀胱が触知される。ただちに陰茎の閉塞物を解除させなければならないが、この場合、陰茎マッサージをすることにより尿道内の閉塞物が陰茎先端より押し出されることがある。猫が閉塞物により全く排尿できなければ48〜72時間内に腎後性腎不全となり尿毒症を来す。尿毒症になってしまった場合には、最近では血液透析も行われている[63]が、依然死亡率は高い。
 閉塞性でないLUTDの一般所見は、普通は尿検査のみ異常である。尿比重の上昇、多量の赤血球、場合によりpHの高値である。尿沈渣により結晶のある場合にはその特徴をつかむ。たとえば尿石のレントゲン線密度や物理的特性、尿のpH(Tab.1)などにより結晶の推測をする。特殊な場合には専門機関で分析をしてもらう。血液生化学検査では、カルシウムを含む尿石では高カルシウム血症を伴うことがあり、尿酸塩尿石では高尿酸血症を伴うことがある。細菌感染が疑われた場合には細菌検査を行う。すでに罹患している猫で、一般に利用している食餌による生活をしている場合には特別処方食のみを食べさせる食餌療法をしなくてはならない。猫の品種、および罹患猫の親や祖先または兄弟の尿石発生歴など診断において参考になる。

LUTD予防

 まず、予防の基本的原則は、内科的に尿量を増加させる方法をとることである。利尿が豊富になると尿中のストラバイト、その他の結石形成物質の濃度が低下する。次いで、尿の酸性化(pH6.5以下)をはかることにより、ストラバイト結石の溶解度が増加する。また、消化率の高い食餌を与えるとマグネシウム摂取量を減少させることができる。往々にして臨床的には再発が高率に起こる。とくに尿道閉塞の再発は最初の解除後の4〜5日の内に起こりやすいので、一時的に2〜3日位尿道カテーテルを留置するのがよい。例えば、十分に尿の流出が回復できない。脱落組織が尿中に多い、膀胱弛緩し集中管理の必要があり、尿流量をモニターする必要があるなどの時には尿道カテーテルの留置を行う。また、再閉塞を防ぐ目的以外にも、排尿量の測定、排尿筋の弛緩を回復させるのに役立つ。しかし、膀胱や尿道を損傷させたり、感染を併発しないように細心の扱いをする。飼い主の不安を取り除く意味で、会陰尿道口形成術は非常に役に立つが、これはあくまでも尿道閉塞という問題に対しての対策であり、LUTDを治療しているものではない。したがって、手術後に抗生物質を与え、二次感染を防ぐと共に内科的な予防方法を十分に取る必要がある。山村の調査では、最初に発症したLUTDの治療期間は、雌は1週間以内で治癒している場合が多く、雄では2週間以上治療を要するものが多い。内科的治療や特別処方食などの治療方法はほぼ同様に行っていることから、雄の方が治療しにくいと考えれれる。また完治した治療期間が2週間以上を必要とした場合に10%以上の猫に再発が起こり、治療期間が長くなる程その再発率は高くなっている。処方食の普及により食餌管理は行いやすいが、通常、高消化率の食餌を与えると、食物必要量が減少し、したがってマグネシウム摂取量の減少(20mg/100g)となりLUTDの危険性が減少する。また、高消化率により糞便量が減少し、糞便中の水分量が減少すると、尿量が増加する。これは総水分摂取量の増加につながり、その結果、尿比重が減少するとLUTDの危険性も減少する。そして、規則正しく食餌を与えることにより尿pHの低下となる。すなわち尿pHは食餌直後に上昇する傾向にあり、食餌回数が少ないほど尿pHが上昇する機会は少ない。しかし、食餌管理のほかに、猫のライフスタイルや太り過ぎなどもFUSの疫学的な調査で関連があることを頭に置かなくてはならない。したがって、処方食を与え、またその与え方など飼い主のFUSへの理解と治療への協力を必要とすることはいうまでもない。

まとめ

 FUSという用語が適切でないことはOsbornら[64]が中心となり、再検討を提唱していた。そして猫のLUTDとして考えられるように多くの臨床評価が検討されている[65]。その結果、新しい治療方法が開発され多くのことが解明されてきたがまだ不明のことも多い。原因がストラバイトに関連しているのであれば適切な食餌を用いることによりかなり症状の予防をすることができる。

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