会陰ヘルニアの一手術法(腹腔内固定法)

会陰ヘルニアの一手術法(腹腔内固定法)

研究者:山村穂積

会陰部の病態・解剖学的変化

 会陰ヘルニアは、骨盤隔膜の筋肉と筋膜が脆弱し、分離する事により骨盤内周辺臓器が尾側方向に移動し、または会陰部直腸が拡張したり、逸脱、変位している状態である。この事から肛門挙筋(肛門後引筋、内側尾骨筋)と外肛門括約筋の間や、肛門挙筋と尾骨筋の間の欠損部に発生し、さらにこれら筋肉が萎縮する。
 原因は、遺伝的素因、ホルモン不均衡、解剖学的な欠陥などいろいろと考えられ様々な方面から研究がされている(1、2、3、4)。これにはいくつかの様々な素因が重なりあって起こるものと考えられる。会陰ヘルニア発症は、小型犬ではマルチース、ヨークシャー、ダックスフンド、プードルそして、中型犬では雑種、日本犬、シェットランドを始めとしていろいろの犬種で起こっている。年齢は、5歳頃から発生し始め8歳から9歳が一番多く17歳まで遭遇している。通常は去勢していない雄犬に起こるが、雌犬でも発症をする。
 片側性の会陰ヘルニアではその約90%が右側に起こっている。また直腸の拡張や逸脱、変位となるゆるみも従って右側である。これはヘルニアの結果として生じるものと考えられるが、単独で直腸の拡張が起こっている場合もある。
 確かなことは、去勢してある犬では経験がなく、去勢していない雄犬に多く起こることから、去勢は明らかに関係しているものと思われ、何かの影響を及ぼしている事は推測している。では去勢と関係があるようであれば、その代表ともいえる前立腺との関わりでは、前立腺肥大を伴った会陰ヘルニアは、統計的には約半分の50%であることから前立腺肥大が関係しているとも考えにくい。

逸脱する臓器

 ヘルニアの内容は、一部には後直腸部に便が溜まり拡張した膨らみが出き、これは直腸嚢や直腸憩室と呼ばれている。また通常は会陰ヘルニア部に液体やシスト状のものや腹膜脂肪組織が溜まり、時にはそれのみではなく膀胱や前立腺、腸管が入っている。特に膀胱が会陰ヘルニア部に入ると排尿ができなくなる場合がある。この時に飼い主は、便秘をしているとか、排便時にいきんでいるばかりで便がでてこない等の訴えで来院する。この会陰ヘルニアは片側性のこともあれば両側性のこともある。

会陰ヘルニアの臨床症状と診断

 臨床症状は、飼い主が気づくものとして便秘をしていると思うことが多い。それは排便時のいきみ、排便困難、排便痛、中には便秘をしたり下痢をしていると思う。そして会陰部の腫脹に気づくことがある。
 会陰部の腫脹は片側または両側で起こる。一般には軟らかく時には波動性がある。この腫脹は会陰部のヘルニア嚢内に水が溜まり、膀胱や前立腺、脂肪組織そして直腸が逸脱している。静かに骨盤前方に親指などでゆっくりと押し入れると腹腔の中に戻すことができる場合が多くある。固く疼痛を伴う場合には、無理に嵌頓組織を押し込むようなことはしないほうが良い。また、会陰ヘルニアの経過が長くなると皮膚は、発赤腫脹し潰瘍を起こしている事もある。排便時のいきみが80%の犬にみられ、直腸には糞塊が詰まっているが排便できず、直腸横部に固く膨れている事もある。レントゲン所見から片側特に右側の直腸が湾曲、拡張、変異しその部位に糞塊が詰まっており自分で排便することができなくなっている。手術に先立ち肛門より指を入れ手術前に拡張の大きさなど十分確認をしておく必要がある。これは、会陰ヘルニアを起こしたことにより、その部位に直腸の便が入り込み、排便時のいきみが起こるものと推測している。

手術方法

 手術方法として、ヘルニア孔の閉鎖をする方法がとられている。その方法は主に以下の3種類である。比較的早期の会陰ヘルニアでは、骨盤隔膜を構成する筋肉群の尾骨筋、肛門挙筋、外肛門括約筋、内閉鎖筋など十分形態を保っているので、これらの筋肉の縫合により整復する方法(5、6、7、8、)、長期経過となった場合にはヘルニア輪の拡大と共に、筋肉が薄くなり縫合閉鎖ができなくなる。この場合の縫合閉鎖法として、会陰部隣接の筋肉である内閉鎖筋の利用や浅臀筋の反転や転移、筋肉弁として隔膜を再構築する方法(9、10、11、12、13、)、その他インプラント材を会陰部に挿入や埋没しヘルニア孔を閉鎖させる方法として、ポリプロピレンメッシュ(14、15、)、シリコンプレート(16、)そのほかキチン・ポリエステル不織布(17、)犬心膜パッチグラフト等の人工材料で行われている。しかしこれらの方法ではいくつかの手術後の合併症や再発が起こる事がある(18、19、)。そこで私の行っている方法は、結腸の固定術および膀胱または前立腺、精管その他の縫合固定を行った後に会陰ヘルニア部の閉鎖縫合を行い、手術後の合併症や再発をさせないことに重点を置いた手術方法である。

●手術前の準備

 全身状態の評価を行うことは通常の手術と同様である。食欲不振、嘔吐、脱水などがあれば同様に治療する。血液生化学検査はもちろんのこと、尿検査や麻酔に必要な検査は行い、全身状態を把握する。そして異常値があればできるだけ正常値に近づけるように治療や投薬をする。
 手術前に点滴輸液の準備をし、手術中、手術後もそれを続けるようにする。麻酔導入後に可能な限り直腸内の糞塊の除去とヘルニア内容物を腹腔へ戻しておく。もし膀胱が嵌頓を起こし、排尿できなくなっている場合にはまずペニス先端より尿道カテーテルを挿入してみる。時としてカテーテルが嵌頓した膀胱にうまく挿入できない場合がある。この場合には一時的に注射針により膀胱穿刺をし膀胱を空にするよりほかに方法がない。空になった膀胱は静かに腹腔方向に押し、できれば腹腔に戻す。

●手術術式

  1. 術野は腹部および会陰ヘルニア部をできるだけ大きく刈毛を行い、先に犬を仰臥位に保定し通常の手術野の消毒をする。その後陰茎と共に包皮を手術布で覆う。
  2. すべての動物を先に去勢する。去勢を行うことで会陰ヘルニアの再発率に違いがあるかは不明であるが、前立腺肥大があれば縮少させることから必ず去勢を行う。また、腹腔内の精管を利用し前立腺を固定するためにも去勢が必要である。
  3. 腹側腹部正中皮膚切開を臍部から恥骨の頭側端近くまで行うので、臍から始め包皮を避け包皮の十分外側を大きく切開する。切開層下部の腹側動静脈を結紮し切り離す。包皮靭帯や付着部を切開し、白線部から腹腔切開する。腹腔内の操作をしやすくするためには大きく切開するが場合によっては前恥骨靱帯を切断しても良い。
  4. 結腸を探し結腸部をゆっくりと頭側に引っ張る。これは会陰ヘルニア部の直腸のゆるみや折れ曲がりがないようにするためであり、このことを頭に描きちょうど良いと考えられる張り具合とする。引っ張った結腸はヘルニア部に入っていた部分には小水泡が出来ている、色が変わっている、薄くなっている、などの変化がある場合がある。この引っ張った結腸を直腸固定術を行う。部位は左側腹部の背側面(通常の直腸の位置)に縫合糸で固定する。この場合固定位置が深いので、アリス鉗子2本から3本使用し、固定予定部位の腹壁をつかむ。この腹壁をつかんだアリス鉗子を起こすことにより固定部位の腹膜が腹腔より出てくるので固定しやすくなる。固定する結腸は血液供給血管部分とは反対側の背側を選び、犬の大きさによるが結腸の10cm位幅、またはできるだけ広い範囲で非吸収糸で固定を行う。一重の縫合であるとその部分が取れる可能性があるので、縫合は水平にマットレス縫合を行うか、連続のマットレス縫合を2重に行う。
  5. 次に膀胱が会陰ヘルニア部に嵌頓しており腹腔に押し戻せなかった場合や、骨盤腔に入り込んでいる場合には、丁寧に探しだし膀胱を頭則に引き寄せる。この場合精管を利用し引き出しても良い。固定した結腸の上に膀胱を載せ、引っ張りすぎないように引き寄せ正常に近い位置にあるように置いてみる。すると必然的に前立腺が結腸の上に乗る。再度膀胱が会陰部にヘルニアをおこさないようにするため、前立腺背側と結腸を数カ所マットレス縫合し前立腺を結腸に固定する。または先に去勢をした腹腔内の精管を両側2本引き出し、膀胱、前立腺の位置を決め、結腸を挟む形、または一個所に纏めても良いが、背則の腹膜にずれないように縫合固定する。しかし膀胱を腹腔に固定することは行わない。もしも固定した場合膀胱が変形する事が考えられ残尿があるようになった場合に膀胱感染が起こる可能性がある。
  6. 次に骨盤腔入り口と直腸周囲、前立腺部が移動しないように腹腔と骨盤腔の隔壁を作る。壁側腹膜を利用し、結腸及び前立腺を包み込むような格好で結腸や前立腺の回りと後腹膜と縫合する。(肥満の動物では脂肪が多くこの操作が出来ない場合がある。)これで腹腔内の臓器の固定を終了する。
  7. 腹部手術の閉腹は通常の方法で行う。次に体位を変えて伏臥位にし、臀部に枕を挟み高くし、尾を前方背中に引っ張り保定する。
  8. 会陰ヘルニア部は両側同時に手術を行う。片側の場合には右側が多くある。ヘルニアになっている上の皮膚を背部より腹下方向に曲線的に切開を加えるが、ヘルニアの内容物が無くなってしまったため皮膚のゆるみが出る。尾の付け根外側近くからヘルニアであった皮膚上の少し外側をカーブさせながらヘルニア部下部の内側腹部方向に左右行う。皮膚切開するとヘルニア嚢の一部が同時に切開され、ヘルニア嚢内にたまっていた液体が出てくる場合もあるが、ヘルニア内に入っていた内容物は腹腔に戻し固定してある為にヘルニア欠損部は大きな穴が開いているようになっている。
  9. 直腸の拡張はそのほとんどが右側およびその下側である事から、この拡張の確認のために5mlの注射器の針を付ける先端部分を切り取り、尖ったところを無くす。それを肛門より挿入し、上下左右に動かすことにより直腸壁のゆるみの部分を識別することができる。
  10. ヘルニア部の筋組織と欠損部全体と縫合する部位が明らかに確認できる。そして会陰部の動静脈と神経を確認し、肛門挙筋や尾骨筋が使用できるようであれば使用するが使用できない場合もある。仙結節靱帯は幅が広く、さわって引っ張ってみると固く帯状にその繊維策が仙骨から座骨結節にのびている。この座骨結節靱帯はヘルニア部を閉鎖するには好条件である。また先に肛門より注射器を挿入してあるのでその直腸のゆるみの大きさを確認する。これら全てを確認してから縫合に移る。
  11. 縫合糸の材質はなるべく結合織が出来るものが良いと考えるが、クロミック・キャットガット、その他デキソンのような縫合糸でも問題ない。また縫合針は強い湾曲針で縫合を行った方が操作がしやすい。
    外肛門括約筋のできるだけ骨盤腔部となる内側と肛門挙筋、尾骨筋の尾に近い筋繊維を背側の方から腹側の内閉鎖筋の方向に縫合して行く。この時に背側の仙結節靱帯のすぐ骨盤内頭側に後殿動脈と座骨神経が通っているのであまり深く針を通すと血管に針を刺してしまったり、座骨神経を傷つけてしまう可能性がある。血管を刺してしまった場合にはそのまま結紮しないと出血を止めにくい。このような血管や神経を傷つけないようにするには、仙結節靱帯の腹腔側内側に指をつっこむと脈を打っているのがさわれるので、その前方に座骨神経が走行していることを頭に描いておく。そこで血管や神経を傷つけない方法としては、仙結節靱帯全体に深く糸をかけるのではなく、靱帯の表層の一部に糸をかけるようにする事である。また直腸壁に軽く糸をかける事もあるが、直腸全層を刺さないようにする。次に仙結節靱帯と外肛門括約筋と合わせるように尾側方向から内閉鎖筋の方向に縫合する。
  12. 内閉鎖筋のすぐそばを陰部神経、会陰神経、内陰動脈、静脈が走行しているので、この部にも糸をかけないように注意しながら内閉鎖筋と肛門括約筋を四方に寄せ集めるように縫合する。こつは術野のできるだけ奥より縫合を施す。肛門挙筋、尾骨筋、直腸壁の筋層を結ぶように縫合する。もしも直腸壁を全層通してしまい、直腸粘膜に飛び出たとしてもその大きさが極わずかであれば問題とはならないと考えている。さらに縫合を重ね、まず深部を完全に縫合し、だんだん浅い方に閉じていく。肛門挙筋、尾骨筋、直腸壁ならびに外肛門括約筋を寄せるように縫合する。縫合を数多く行うことにより、その部分に結合織ができ、より丈夫となり再発を防ぐ事になる。縫合は各筋層を一つずつ縫合すると云うよりも、縫合できる組織を全て縫い合わせるようにすると表現したほうがわかりやすいかもしれない。
  13. ゆるんでいる直腸部に5mlの注射器を挿入してあるがそれを各方向に動かし、注射器の先端部分で直腸壁を膨らませても筋層の縫合、膨らみ部分の縫合が進むに従って自然と抜け出てしまう。しかし挿入してある注射器を動かす事により直腸にゆるみがあり膨らむようであれば、その部分の直腸と平行に直腸がアコーデオンのようにちじまるように糸をいくつも通し縫合する。
  14. ヘルニア部分の縫合を行っていく時に、肛門が大きくゆがまないように縫合糸をかけるように調節する。次に会陰筋膜を皮膚から剥離して肛門括約筋に重ね合わせるように縫合する。会陰筋膜が不明瞭で確認ができなければそのまま皮下織を縫合する。
  15. 皮膚縫合時に余分な部分が出来ることがあるので、それを切り取り皮下織そして皮膚と型のごとく縫合する。縫合は非吸収性のモノヒラメント縫合糸を使用する。

 両側性の会陰ヘルニアがあるときには、左右同時に手術を行うようにしているが、外肛門括約筋を両側に極度に引っ張られる事を注意する必要がある。しかし、腹腔より結腸や膀胱、前立腺を引っ張り固定してあるので、あまり肛門括約筋を両側に引っ張らないですむ。

●術後管理

 術後は会陰手術部が肛門部に近いので感染率が高いと思われるので、抗生剤や抗菌剤の投与を続ける。しかし時として会陰ヘルニア縫合部に分泌物が溜まることがある。この場合縫合部の一番下側の糸を一部抜糸するとともにガーゼドレーンを挿入して処置すると排液され、イソジンなどで洗浄することにより問題なく治癒する。もしも手術後に排便時のいきみが残っていても術後の疼痛がとれることによりその症状は消えるのが普通である。術後の切開部を舐めたりする事を防ぐ意味で、エリザベスカラーを取り付ける事はその意義がある。

●理論

1)会陰ヘルニアの手術方法として、古くは骨盤隔膜を構成する筋肉群で再構成させ閉鎖をする方法をおこなっていたが、大きなヘルニアではこの方法では閉鎖不能の症例やいくつかの再発が起こることに遭遇した。そこでヘルニア孔の閉鎖を簡単に行なえしかも再発が無いと考えられる方法を理論付け、手術を実施した。

2)まず会陰ヘルニアとは、腹腔内の臓器が逸脱する。この逸脱する臓器を逸脱しないようにする方法として、逸脱する孔に外側より蓋をするか、腹腔内で内側より蓋をするかである。今まで報告されている方法としては、その殆どが逸脱してくる外側より蓋をする方法が取られている。しかし、ビンに蓋をするごとく骨盤骨を利用しての蓋であれば、硬く蓋をすることができるが、周りの筋肉や皮膚に縫い付け蓋をすることしかできないために、蓋をして止めておいても周りは柔らかい組織であるので圧力がかかればいずれは伸びてしまい、蓋が取れてしまう。したがって再発をする。この圧力にかか内側の腹腔内で骨盤腔の入り口に隔壁を作ることを考えた。

3)隔壁を作には骨盤腔に入っているものは直腸、前立腺、尿道、精策である。そこで直腸の周りを腹膜で囲み固定することである。しかし直腸が会陰ヘルニアを起こしている場合には、直腸の周りで隔壁を作っても治癒されない。

4)そこで、骨盤内に逸脱している臓器や組織を正常の位置に固定する。固定後の直腸の周りに腹膜で隔膜を作ることは意義が生まれ、また骨盤腔内への逸脱する臓器の再移動による圧力も軽減される。この操作を行なうことで再発が無くなるという理論武装を行った。

5)そこで、直腸固定、前立腺、輸精管を腹腔内で腹壁に固定し、さらに骨盤腔入り口部分に隔壁を作成した。この手術方法で、長い年月、多くの症例で再発が押さえられている。もしも再発するとすれば、腹腔内の臓器の固定が悪く取れてしまったか、直腸の拡張している部位の処置をしていない場合である。この直腸の拡張は肛門部に近いため腹腔内で処理することが出来ないためである。

6)この直腸の拡張は、会陰ヘルニア部の手術を行なうことにより直腸壁を操作することが出来る。したがって、会陰ヘルニア部の手術も行なう必要がある。会陰ヘルニア部は逸脱している臓器が無いために空洞となっていることが、腹腔内の操作がしっかりと行なわれていることになる。

7)直腸の拡張部はアコーデオンの様なひだを作りちじめることによりそこに便が溜まらないようにすることができる

 このような操作でかなりの症例に対応できるようになった。

考察

 会陰ヘルニアは手術後再発率が高く、特に片側の会陰ヘルニアの修復手術をした場合に反対側に再度起こることが多くあるとされている。それはヘルニア孔のみを片方ずつ出口を閉鎖する方法がとられているからである。この欠点を補うためには開腹手術を加えたことになるが、結腸、前立腺を正常の位置に固定し、更に腹膜で骨盤腔内に腹腔内容物が入らないように処置をすることで、骨盤腔内への腹部の圧力がかなり軽減できることにある。そして左右の会陰部の各筋肉や筋膜を縫合し、直腸の拡張部をちじめることにより、再発した症例がいまだにないことから進められる手術法である(20、)。本手術方法は、切開部位が腹部および会陰部の2カ所で行わなくてはならない煩雑性は有る。しかし、この方法に慣れてしまうと2個所の手術が当たり前となり、また排便時のいきみ、排便困難、その他の症状の早期消失により比較的短期間で完治し、合併症や再手術などの心配が全く無く治癒率の高い方法である。

●注意点

1)必ず去勢する。
2)各臓器の固定部位は正常の位置になるように固定する。
3)腸の腹壁固定部位は出来るだけ腹壁の背側を選ぶようにする。このことを意識していないと腹壁切開部のすぐ側で縫合固定が行なわれているからである。縫合固定の長さは10cmほど2重に縫合する。これは長い経過の中で縫合固定部取れてしまう危険性を防ぐためである。
4)臨床症状の改善は手術後消失するが中には3週間くらいかかるものがあるが、その殆どは直腸の変位、湾曲、拡張が起こっていた症例である。
5)手術中の合併症には遭遇していない。しかし、会陰ヘルニアの手術で一般にいわれているように、外陰部血管と肛門括約筋に分布する神経などを傷つけないようにする。
6)直腸変位、湾曲、拡張はヘルニアの程度と持続期間に関係があるかは不明であるが、単独で起こっている場合もある。この手術で排便動作が消失しない場合には再発というよりもこの直腸の処置が旨く行われていないことが考えられる。
7)ヘルニア嚢の縫合は、骨盤腔の永久的な縫合を多数深部より表層に行う。
8)手術前に触診により、ヘルニア内容物の癒着、還納性を検討しておく。
9)術後の合併症は術創の感染、烈開である。通常の会陰ヘルニア手術での合併症は便失禁、排尿異常、しぶり、直腸脱、坐骨神経麻痺などが考えられるのでこの点にも注意することを怠ってはならない。

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