獣医療の質の向上を目指して“経営面からのアプローチ”
山村穂積
動物病院の実態は、従業員の総数が5人以下がその殆どをしめており、また家族の手伝いのみで、実際のスタッフのいない家族経営の動物病院も数多く見受けられることから社会的には小規模企業である。従って経営を考えた場合にはそのような大げさな言葉は要らない動物病院が多くあるということになる。しかし、小規模でも“経営”ということを考え実行していくことにより、個人動物病院から地域ニーズに合った動物病院となり、だんだんと中小企業と言われるような動物病院に移行していき、クライアントが自然とその動物病院を成長させていくものである。これは単に長らく一つの仕事をしていれば熟練の域に達し成長すると言うことではなく、繰り返す仕事の中で“法則”をつかんでいくことが”経営”となる。
動物病院の相手は人間(クライアント)であり、クライアントが儲ける動物病院作りに手を貸している。しかし、動物病院の院長の考え方や行動によっても動物病院の器や質が決められ、中でも高度医療をすることだけが質の向上につながるのではなく、社会に通用するような、後ろめたさがないような、堂々として道の真ん中が歩けるような優秀な動物病院院長になることが”獣医療の質の向上”につながる。これには経営を無視することは不可能で、社会的に認められることの重要性を認識することである。
これらにことをふまえると“動物病院の院長はいかにあるべきか”ということの中の一つに“経営”の問題も考えざるを得ない。
“院長はいかにあるべきか”
1.当たり前のことをする
当たり前のことを当たり前にすることが最も重要。例えば怪我をすれば、消毒をして包帯をするごとく、クライアントの要望が何であるか、なにを求めて動物病院に訪れるか、その要望にクライアントの思うように応えてあげること。もちろんクレーム処理も頭を下げるところはさげ、正直に対応することは必要なことである。
動物病院が成長するに従い、当たり前のことも変化する。これは当たり前のことを当たり前にする努力とそれに伴った知恵が必要である。
治療費はなぜこんなに高いのかの会計の明朗化、(いつでも料金体制がしっかりしていてあいまいでない)スーパーなら10円の買い物でも領収書をくれる。領収書の発行、価格設定は具体的に料金表でクライアントに納得してもらう。
・クライアントにはサービスと喜び
・動物には医療と安らぎ
・地域社会にはふれあいと貢献
を提供するのが動物病院の当たり前な役割である。
2.やらなければならないことをやる
経営方針の明確化と院内への浸透化。
経営理念、方針の文書化(目的から眼をそらすな)。
院長およびスタッフの目標設定、スタッフ一人一人がその病院の決めごとを作っていき、就業規則の項目が増えていく。
従業員(人材)、顧客、地域社会重視の経営。
獣医療の質を上げる自己研鑽とクライアントニーズの開拓が大切。
3.やってはならないことはやらない
人の心の動きというものでこれが一番難しいかもしれない。やってはならないことは、自己の理念が大きく絡むことであり、法律違反をするかしないかである。例えば最も社会的に最悪なことは脱税である。税金をしっかり納め、大道を歩くことにより、社会(クライアント)がその病院を評価する。
獣医療の質や価格を下げて無理矢理クライアントをかき集めても発展につながらない。
4.質の向上と高度医療
Head、Hand、Heartが必要であり、高額な器械、器具を使用しての診断、治療においては、それは趣味で必要と考えなくてはならない。
元を取り儲けなくてはならない場合には、その器械の原価消却に合わせて料金設定をしなくてはならない。ジレンマがある。
クライアントの立場に立って考えてみることが大切。
最後に獣医療の質の向上を経営面から一言で言うと、獣医師として、院長として、そして経営者という3つの顔を持つ者は、夢、ビジョン、使命感を持ち、ものごとを前向きにとらえる姿勢である。