犬の膿皮症

犬の膿皮症

岡田かおり、山村穂積

 

〔はじめに〕

膿皮症は臨床の場において最も多く遭遇する皮膚疾患であり、そのほとんどが他の皮膚疾患に伴って二次的に起こる。日常診療の場においてその診断や治療に苦心した症例を紹介したいと思う。

〔症例報告

症例1)ミニチュアダックスフンド、6歳齢、避妊済雌、体重5.2kg

病歴:3歳齢時に結節性脂肪織炎を発症、ステロイドによる治療中に医原性クッシングを発症した経歴あり。

経過:4ヶ月前より全身性のそう痒、脱毛、痂疲付着が認められた。皮下に結節が数個認められた。そう痒が重度であったためプレドニン1mg/kgEODを投与した後、全身性に膿皮症が発症したとのこと。被毛が薄くなったため6週間前よりプレドニンの投与を中止した。

初診時身体検査所見:体温39.8℃、3週間前より食欲低下、嘔吐が認められた。体幹は脱毛、色素沈着が認められ、被毛は痂疲を伴い容易に抜けた。頭頂部、左肩部、腹部には表皮小環、膿疱が散在していた(figure1,2)。右肩部に排膿した結節が認められた。

臨床検査:
[皮膚掻爬検査]陰性
[皮膚塗抹検査]腹部、頚部より球菌が多数認められた。
[膿疱の細胞診]好中球が多数、表皮細胞が少数認められた。
[血液化学検査]WBC20700/μL, Ht41.1%, ALP285U/L, AST34U/L, ALT17U/L,Crea0.4mg/kg, BUN6.8mg/kg, TP6.3g/dL, ALB2.2g/dL,Glu90mg/kg,
[抗核抗体]陰性

鑑別診断:膿皮症、全身性エリテマトーデス、落葉状天疱瘡、アトピー性皮膚炎

治療と経過:
全身性のそう痒、膿疱、表皮小環の原因として膿皮症を疑い、セファロスポリン25mg/kgBIDを投与、クロルヘキシジンシャンプーを一日毎に使用するよう指示した。
2週間後食欲低下は変わらず、皮膚症状は軽度の改善が認められた。投薬は行ったがその後嘔吐するとのことでアモキシシリン27mg/kgBIDに変更し2週間内服した。
皮膚は改善傾向にあったが膿疱、表皮小環は未だに散在し、発熱、食欲低下、嘔吐が続いていた。全身症状が低下している原因は結節性脂肪織炎と考えられたが、膿皮症が完治していないためその治療を優先とし、抗生物質のみの治療をさらに4週間継続、シャンプーを毎日実施した。
全身の膿皮症はほぼ改善し発毛が認められた。その後プレドニンによる治療を行い発熱、食欲低下も改善した。プレドニンは0.5mg/kgEODで維持しているが、シャンプーの継続と時折認められる膿皮症にはビクタスクリームの外用で良好に維持している。


症例2)柴犬、6歳齢、未去勢雄、体重6.6kg

経過:生後2ヶ月頃より全身性の強いそう痒が認められ、眼瞼、口唇、肢端、鼠径部に細菌性毛胞炎が認められた。アトピー性皮膚炎が疑われ、抗原特異的IgE検査(日立化成)、皮内反応を実施し、ともにハウスダストマイトに陽性であった。アトピー性皮膚炎に対して様々な治療を行ったが、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー薬、漢方薬、三環系抗うつ剤、ステロイド剤、インターフェロンγの投与でそう痒をコントロールすることは困難であった。ステロイドの投与によりそう痒の減少が認められたが毛包炎が悪化した。(figure3)。

治療:減感作療法を開始した。抗原液はgreer社のMitemixを使用した。治療開始後2ヶ月ごろより発赤の消失やそう痒の減少が認められ、良好に維持している。そう痒は数種類の内服薬を併用していた時よりもはるかに改善された。そう痒によるストレスがなくなったためか性格や顔つきが穏やかになった(figure4)。以前はステロイド投与時に毛包炎が悪化し抗生物質を継続的に投与していたが、現在はシャンプーと外用消毒のみでコントロールでき、減感作療法を開始してから4年半の間に抗生物質の内服をしたのは20週間程度であった。


症例3)シーズー、7歳齢、避妊済雌、体重6kg

幼少の頃より皮膚のトラブルが多かった。初診時(4歳齢)の頃は肢端と腋窩の発赤、外耳炎などが認められ、断続的な抗生物質(セファレキシン22mg/kgBID)や抗ヒスタミン剤(ジルテック®5mg/headSID)の内服、シャンプー療法(コラージュフルフル®)で維持できていた。7歳齢頃より体幹や四肢の油性脂漏が悪化し(figure5,6,7)、ほぼ継続的に抗生物質、抗真菌剤を内服している。プレドニン(2.5mg/kg SID~EOD)も併用している。


〔考 察〕

症例1はステロイド使用中に二次感染が起きた例である。原疾患として結節性脂肪織炎が存在していたこと、初診時にステロイドはすでに中止した上で抗生物質による治療していたが改善が乏しかったこと、膿疱が認められていたが細菌感染が明らかでなく他の膿疱性疾患も考慮する必要があったことなどがあり、診断、治療方針を決定するのに悩んだ症例であった。4カ月前から皮膚が悪化した原因は、その皮疹から膿皮症であると考えられたため、抗生物質による治療のみを行った。改善の乏しい膿皮症においては抗生物質の投与量の増量やシャンプーの種類、使用方法が適切かどうかを確認することが重要である。ステロイドなどの免疫抑制療法は中止するべきだが、すべての症例で可能なわけではない。特に本例のような全身状態が悪くなる原疾患をもつ時はオーナーの理解が必要なためインフォームドコンセントが重要である。

症例2はアトピー性皮膚炎の症例で、そう痒の程度が強く内服薬で抑えることが困難で、慢性的に毛胞炎を起こしていた。減感作療法により、原疾患のコントロールがうまくいくことによって、毛胞炎の再発の頻度が明らかに減少した。

症例3は脂漏症が疑われるの症例である。症例2と同様に原疾患が存在するが、現在の治療が抗生物質療法とシャンプー療法のみのため、うまくコントロールできていない。原疾患である脂漏症の治療が今後必要であると考えている。具体的にはシャンプーの変更(過酸化ベンゾイルシャンプーやサルファサリチル酸シャンプー)、ビタミンAの投与、さらにプレドニンの休薬などが必要であると考えている。