フェレットのクリプトコッカス感染症の1症例
白神久輝、岡田かおり、山村穂積(Pet Clinic アニホス)
クリプトコッカスは酵母様真菌で世界中に分布しており、鳥の糞の吸入によって感染し、鼻と肺に病変が現れることが多い。本菌は中枢神経系に親和性を持ち、クリプトコッカス髄膜炎を合併すると重篤となる。クリプトコッカス抗原価の測定により診断が可能であり、抗原価の推移により病勢や治療効果の判定が可能である。フェレットにおける本感染症の報告はほとんどなく、フェレットで報告されている症例の予後は単発した皮膚クリプトコッカス症以外は不良である。今回肺クリプトコッカス感染症と診断し、イトラコナゾールを5~10mg/kg一日一回経口投与したところ良好な経過をとっている症例に遭遇したため、その概要を報告する。
〔症例〕
症例は3才6ヶ月齢の雄のフェレットで、一年前からのくしゃみ、一ヶ月前からの咳と運動量の低下を主訴に来院した。一年前にベランダに鳩が巣を作り、そこで本症例がよく遊んでいたとの稟告を得た。
〔検査所見および診断〕
身体検査において下顎リンパ節の腫脹(右;28mm、左;25mm)が認められた。血液検査では、WBC;11200/μl、PCV;50%、TP;7.4g/dlであった。胸部および頭部レントゲン検査では、軽度の気管支間質パターンが認められた。下顎リンパ節の針吸引細胞診を行ったところ、形態学上クリプトコッカスと思われる多数の菌体と赤血球、好中球、マクロファージが認められた。追加検査として血清クリプトコッカス抗原価の測定を行ったところ16倍であった。以上の検査所見より肺クリプトコッカス感染症と診断した。
〔治療および経過〕
イトラコナゾール(5mg/kg sid)投与を開始した。治療開始2ヶ月後に下顎リンパ節の縮小(右;15mm、左;15mm)、くしゃみ、咳の消失、運動量の増加が認められた。治療開始4ヶ月後にさらに下顎リンパ節の縮小(右;12mm、左;8mm)が認められた。下顎リンパ節の針吸引細胞診を行ったところ、クリプトコッカス菌体は採材組織中に4~5個程度まで減少していた。しかし、治療開始5~6ヵ月の1ヶ月間に投薬が中止されたところ、下顎リンパ節の腫脹(右;11mm、左;21mm)および咳が再発し来院した。下顎リンパ節のクリプトコッカス菌体は増加しており、イトラコナゾール投与量を増量(10mg/kg sid)し、治療を再開した。治療開始8ヵ月後に下顎リンパ節が縮小(右;5mm、左;5mm)し、咳も消失した。下顎リンパ節の針吸引細胞診を行ったところ、クリプトコッカス菌体は全く認められなかった。血清クリプトコッカス抗原価は2倍未満であった。現在治療開始1年が経過したが、再発は認められずイトラコナゾール(10mg/kg sid)にて経過観察中である。
〔考 察〕
過去の報告では、フェレットの鼻腔内クリプトコッカス感染症1例、肺クリプトコッカス症1例にイトラコナゾール25~33mg/head sidで治療されていたが予後は不良であった。本症例は稟告から、高濃度に鳩の糞を吸入することで肺クリプトコッカス症を発症したと考えられた。イトラコナゾール10mg/kg sid投与でクリプトコッカス抗原価が2未満に減少し、臨床症状が消失した。したがって本症例ではイトラコナゾール10mg/kg sid投与で良好な経過の維持が可能であった。
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