年次大会 Proceedings 2000年

平成12年度日本小動物獣医学会年次大会(奈良) Proceedings 

一般講演
●前縦隔型リンパ腫が原因で脊髄壊死を起こした犬の1症例
研究者:大串直史 小川華子 岡田みどり 北川勝人 鈴木隆之 佐藤常男 山村穂積 田中茂男

教育講演
●犬と猫における導尿法
研究者:山村穂積


第21回 動物臨床医学会年次大会 Proceedings 

一般講演
●犬におけるカラードマイクロソフェア法を用いたドパミン投与時の循環動態の検討 
—特に心臓と腎臓の血流の変化—
研究者:古川修治 佐藤秀樹 田中綾 星克一郎 長島由紀子 平尾秀博 山根義久

症例報告
●猫の糖尿病の16症例
研究者:佐古絵理 三枝早苗 山村穂積

 過去7年間に来院した糖尿病と診断された猫16例について、 臨床経過の比較・検討を行い、その傾向について考察した。

●猫の全身性抗酸菌症の2症例
研究者:古川修治 長澤昭範 三枝早苗 山村穂積

 呼吸器症状と肉芽腫性リンパ節炎を主症状とした2例の猫について全身性抗酸菌症と診断し検討を行った。その2例は同一家庭の同居猫であり、類似症状を呈していた。症例1では、死後病理組織検査で抗酸菌が確認された。症例2に対し、その症状と症例1の抗酸菌の確認をもとに抗酸菌治療を行った。その2ヶ月間にわたるリファンピシン、イソニアミド、エンロフロキサシンの3剤併用による抗酸菌治療の結果、鎮咳とリンパ節の縮小化が認められ、良好な治療結果が得られた。このことから症例2も全身性抗酸菌症と診断した。全身性抗酸菌症では、その感染源の特定や診断、治療方法、予後、そして公衆衛生上の重要な課題を含め、十分な検討を行う必要がある。

●猫の歯肉口内炎に対する治療効果の数量化とそれに基づく各種治療法の比較
研究者:藤田桂一 戸野蔵雅美 花田幸子 三ツ村麻美 高柳博之 土屋彰彦 柴崎裕也高山和之 廣田賢司 藤田理恵子 山村穂積 酒井健夫

 猫の歯肉口内炎38例中5例は歯垢、歯石を除去し(Ⅰ郡)、11例は抗生物質を投与し(Ⅱ郡)、5例はステロイド剤を投与し(Ⅲ郡)、5例は抗生物質・ステロイド剤を併用投与(Ⅳ郡)し、7例は抗生物質・ステロイド剤・ラクトフェリンを投与し(Ⅴ郡)、5例は全顎抜歯後、抗生物質を投与して(Ⅵ郡)、治療前後の食欲、流涎および歯肉口内炎の程度を比較した、その結果、いずれのスコアともⅥ郡でも治療効果が最も高かった。

●犬の嚢胞性髄膜腫の1例
研究者:北川勝人 岡田みどり 大串直史 鈴木孝之 山村穂積 田中茂男

 犬脳腫瘍の中で髄膜腫は最も一般的な腫瘍である。しかし、嚢胞性髄膜腫の報告は少ない。我々は発作を主訴とする犬において、ヒトの嚢胞性髄膜腫に準じてMRI検査で嚢胞性髄膜腫と診断しその所見に応じ腫瘍の摘出を行い良好な結果を得た。

●四肢麻痺を呈した脊髄髄膜腫の1例
研究者:大串直史 小川華子 岡田みどり 北川勝人 鯉江洋 佐藤常夫 山村穂 積 田中茂男

 四肢麻痺を呈した雑種犬において、脊髄造影、MRI検査所見などから、硬膜内髄外腫瘍との知見が得られ、総合的に判断すると脊髄髄膜腫と考えられ仮診断した。外科的手術と治療を実施したところ、病理検査で診断が一致した。術後は良好な経過をたどり、若干の跛行は残存するものの、歩行可能となり、現在まで再発は認められていない。

●犬リンパ腫の脊髄浸潤と思われる後麻痺の1例
研究者:大串直史 北川勝人 鯉江洋 佐藤常男 山 村穂積 田中茂男

 頚部に無数の皮膚腫瘤が出現し、やがて後?麻痺を呈した犬に対して皮膚生検とMRIを行った。病理検査の結果、皮膚型リンパ腫との診断が得られた。MRIでは、傍脊椎部に腫瘤塊が認められたが、脊髄への直接的な圧迫所見は認められなかった。なお、脳脊髄液中に畏型性のあるリンパ球様細胞がみられ、腫瘍の脊髄への浸潤が示唆された。

パネルディス カッション
●小動物医療と倫理 —動物病院の現状から—
研究者:山村穂積

平成12年度 日本小動物獣医学会(関東地区三学会・栃木)  Proceedings

一般講演
●犬の免疫介在性非びらん性関節炎の2例
研究者:坂井学 亘敏広 北川勝人 宮守美由紀 橋本志津 鯉江洋 山谷吉樹 佐藤常男 竹内啓

 免疫介在性関節炎はびらん性と非びらん性に分類される非感染性の間接疾患であり、免疫複合体の滑膜沈着に起因すると考えられている。非びらん性関節炎の代表的なものにはSLEがあげられ、びらん性のリウマチ性関節炎とは対称的に骨の吸収・破綻がほとんど認められないため、診断の確定は必ずしも容易でない。今回、免疫介在性非びらん性関節炎と診断した犬2症例にたいし、コルチコステロイドと免疫抑制剤を使用し良好な結果が得られた。

研究報告
●猫歯肉口内炎に対する治療効果の数量化とそれに基づく各種治療法の比較
研究者:藤田桂一 戸野倉雅美 花田幸子 高柳博之 三ツ村麻美 土屋彰彦 柴崎祐也 山村穂積

猫の歯肉口内炎は、口腔内の疼痛を伴う歯肉および口腔粘膜の慢性炎症性疾患である。本症に対する治療としては歯垢・歯石除去、あるいは各種薬剤投与による治療が試みられてきたが、完治は困難であった。しかも各治療法による改善効果が数量化されていないため、その評価は客観性に欠いている。そこで今回、治療法を6群に区分し、食欲、流涎および歯肉口内炎の程度に対する治療効果を比較検討した。


第60回 獣医麻酔外科学会  Proceedings

●腹膜心膜横隔膜ヘルニアの整復法
研究者:弓削田直子


第9回 日本動物看護学会  Proceedings

●重度脳障害を持つイヌの介護例
研究者:児玉由美子・山本亜希・小中裕子・岡本五月樹・山村穂積

日々いろいろの疾病に携わる中で、私たちは獣医師による指導を多く受けるが、今回重度の脳障害を持つイヌの介護を担当し、入院から自宅でのケアーの指導まで、症状の変化や回復に応じた一連の看護をする機会を得たので報告する。

症例: ヨークシャーテリア 避妊済みメス 14歳  体重1.5kg
突然の食欲不振と軽度の腎不全を主訴に転院した。
これらの治療中に全身性の発作で入院。脳障害が疑われた。

経過:
 入院初日(第1日目);エアーマットを敷いた入院舎内でケージレストをし、内科治療によって痙攣様発作は治まったが、意識ははっきりせず、横たわったっまま遊泳運動が続いていた。
 第2病日;遊泳運動は続いていたが、飲水出来ることを確認した。
 第3から第5病日;遊泳運動は徐々に治まり、次第に呼びかけに目を動かしたり、顔を向けるようになった。この時点で左側横臥しかできないことが解り、さらに眼球をエアーマット上のタオルで傷を付けて角膜損傷が起きた。主治医より1日4〜5回の点眼治療と抗痙攣薬などの投与の指示を受けた。食餌は流動食に糖を加えた物からペースト状の高カロリー食へ徐々に変えていった。
 第6〜9病日;右側の前、後肢を動かし、犬舎内の位置移動が出来るようになった。しかし依然として左の後肢は動かず、また右側横臥させても左に向けた頭を重心として回転し、左側横臥位になってしまった。体重が増加しないため、主治医より食事量を体重維持量より増加させるように指示を受けたが困難であった。
 第10〜17病日;鳴く、振り向くなどの意志表示が出来るようなった。また、常時左半身が下になるので、右半身を時々下にしてあげると、自ら動作の利く右半身の前肢や後肢を動かすことから、結果的にどうしても左下の横臥姿勢をとり続け、姿勢により起こるであろう褥創などを起こさせないようにするための管理が難しくなった。
 食事に関しては、お皿からの自力採食させ、残りは注射器を用いて補助して与えることで、1日の必要カロリーを摂取することが出来るようになった。この間に内服薬の投与も同時に注射器を用いて強制投与したが、この管理だけでもかなりの時間と根気を必要とした。
 入院中は家族で毎日面会に来ていたので、その都度飼い主さんの自宅での介護指導と食餌の与え方など今後の生活の注意点について私達からお話しする機会が多くあった。退院近くの2日間に渡り面会に来たときに飼い主に食餌と投薬の仕方を教え練習をしてもらった。その後、一時帰宅させ、翌日に再度出来なかった部分と確認の指導をした。これらの指導は毎日のように飼い主さんが面会に来て私たちの行っていることを見ていたことなどを含め、退院後の自宅での食餌の与えかたや介護に関する指導期間は比較的短くて済んだ。
退院後、現在MRIの検査待ちの状況である。

考察:
 退院後も「エアーマット」は終日使用しているが、エアーマットによる保護は発作による危険防止および褥創を防ぐために有効であった。ただし本症例のように一方向にしか横臥出来ない例については、長期的になるに従い無気肺などを起こすといわれ、この無気肺を防止するためにもさらなる工夫が必要であると考えられた。
 給餌を行うに当たって投薬には3mlの加工した注射器、食餌には10ml注射器が効果的に利用できた。この際意識の低下している患畜に対しては、誤嚥に細心の注意が必要であった。
 長期に渡り介護が必要となる症例には、飼い主さんの介護に対する理解と協力が得られるような指導をすることが大事であることを痛感した。


2000年度 日本獣医臨床病理学会年次大会(東京)  Proceedings

●死を認めた猫に皮膚ー尿管口形成術を行った1症例
研究者:藤田桂一 戸野倉雅美 田村一朗 岡村優 花田幸子 高柳博之 河野和一郎 柴崎裕也 土屋彰彦 永田瑞穂 山村穂積 酒井健夫

以前から猫下部尿路疾患(FLUTD)による腎機能低下を繰り返した13歳齢の雄の日本猫が、尿閉により虚脱状態を呈し来院した。本症例は尿道閉塞の解除および塩酸ドパミンを含む持続点滴による内科療法によって一般状態が改善されたため、一時退院した。しかし、2日後には再び元気消失、腹囲膨満および排尿が認められないとの主訴で来院した。腹部レントゲン検査によって膀胱破裂と判断し、直ちに開腹手術を試みたところ、尿管開口部周囲のわずかな膀胱三角部をのぞく膀胱全体が壊死を呈していた。そこで膀胱のほぼ全域を切除し、残存した膀胱三角部を腹部皮膚に開口した。その後の経過は良好であり、現在抗生物質の投与をしているのみである。