手作り食の落とし穴

 暑かった夏も過ぎ去り、かといって秋といった風でもなく、なんとなく湿度の高い今日この頃........早くからっとした秋風を感じたいものです。
 さて、今回は「手作り食の落とし穴」について考えてみましょう。一般的には「手作り食では十分な栄養のバランスが取れない」と言われています。しかし、実際にはきちんとした指導のもとに良質な素材を、各個体に適した分量で十分なエネルギーを満たすように作り、さらに体調に合わせたサプリメントを上手に使っていれば何の問題もないように思えます。その代わり、飼い主は毎日の体調を糞便の様子や行動パターンなどから観察し、それを補うように食材を換えたり、サプリメントを使用したりと、単にドッグフードを与えているより多くの手間と知識が必要になるのは当然のことです。
 それでもかわいい我が子(ペット)が病気になった時などは、そんな手間はいとわずに一生懸命作ってくれる飼い主様もいらっしゃいます。では、いったい手作り食の何が問題なのでしょう?
 それは、かわいがり過ぎるあまり飼い主様が処方を相談なく変えてしまうことなのです。健康なときならば大きな問題にならないことでも、疾患があるときにはそれを調整するためにレシピを処方するので、それが正しく守られていなければ、何の効果がないばかりか、かえって状態を悪化させてしまうことさえあるのです。
 例えば先日もこんなことがありました。慢性的に長い期間下痢を繰り返している大型犬がいました。検査の結果治療が開始され、同時に食餌も変えていくことになりました。この子の場合食べれば下痢を繰り返しているので、まず下痢を止めなければなりません。それは食餌だけでは止まる下痢ではなかったので、食餌だけでは下痢を止めることは出来ませんが、その相乗効果でゆくゆくは投薬量を減らし、肝臓などにかかる負担を減らすことが出来ます。そこでまず、下痢を止めるため、そして下痢の原因となっている可能性の在る食材を探すため、ごはん(粥状)のみからはじめました。そして下痢が治まってきたら、食材を一種類ずつ添加し、様子を観察するといったことをしばらく繰り返しながら、最終的な食事内容を決めていきたいと思っていました。しかし、飼い主様はその子がかわいいあまり、少し下痢が止まると、色々なものを食べさせてしまいます。下痢をするのでの食べさせなければと気がせいてしまうそうです。しかしその結果また下痢を繰り返す。これでは悪循環で、投薬量を減らすことも出来ないばかりか、飼い主も不安が募り、その子自体もいつまでも栄養を吸収できないまま体重が減少してしまいます。
 こんなこともありました。すい臓が弱いので消化が良いオートミールを食材のひとつに加えました。最初の2週間くらいは状態がよく飼い主様も喜んでいらっしゃいました。ところが約1ヵ月後下痢をされて来院されました。よくよくお話を伺ってみると通常7~8倍の水で調理するオートミールをそのまま与えていたそうです。これでは食物繊維が多すぎる上に、消化にも相当な負担をかけています。必要量の7~8倍も摂食していることになるのですから。
 この2例を取り上げただけでも、「手作り食」を指導する場合の難しさを感じました。
またペットの食生活だけではなく、飼い主様の食生活のパターンも伺う必要があるのではないかとも思いました。動物は飼い主様が用意してくれるものしか食べられません。そしてそれが健康を左右します。
 「飼い主の健康は我が子(ペット)の健康」でしたよね。この意味をもう一度考えてほしいと思います。そして私もこの概念がより多くの手作り食を与えている飼い主の方々に伝えていけるよう努力していきますね。そして少しでも疑問があったら何回でも気にせずに聞くことも大切だと思います。

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