言葉の表現「犬や猫はヒトの食べものを食べてはいけないんですね」

 毎日どんよりとした日が続きますが、気持ちまでどんよりとしないようこの時期を乗り切りましょうね。
 ところで、今回は話題が少々それますが、言葉の表現について少しお話します。あることを伝えようと思ったのに、実際相手は違った意味に受け取っていたり、実は理解していなかったなんてこと経験したことありませんか?
 例えば先日こんな表現がテレビから流れてくるのを耳にしました。「犬や猫はヒトの食べものを食べてはいけないんですね」この表現は犬や猫の栄養について知らない方にとって非常に誤解を招きやすく、この「〜してはいけない」という表現が動物とヒトの間に大きな壁を作ってしまっていることに気が付きますか?
 犬や猫はもともと肉食(厳密には犬は雑食)、ヒトは雑食です。ですからそれぞれその主食である穀物や肉を効率よく栄養として消化吸収できるような歯の形であったり、腸の長さであったりするわけです。また、犬や猫はヒトのように皮膚から汗として余分な塩分を排泄できないため、塩分を多く含んだ食材は腎臓に負担をかけます。絶対に食べてはいけない食材は「たまねぎ」で、食べると赤血球が壊れてしまいます。よく、ニンニクも言われていますが、これは少量であれば問題もありません。
 私たちは何かを説明する場合にまず、「してはいけない」ことを先にする傾向があります。そうすると頭の中にしっかりと叩き込まれるわけです。でも、ここでちょっと考えてみてください。犬や猫、そしてヒトも哺乳類。そしてほぼ同じ環境で生活を共にしています。上記の何点かをのぞけば共通点の方が実は多かったりするのです。ですから味付けのない肉や魚、野菜などヒトが食べる食材をたべてももちろんかまわないわけです。ヒトの健康に良いと考えられている食材は殆ど犬や猫にも大丈夫です。嗜好や健康状態によって食べるものが変わるのもヒトと変わりません。摂取する栄養の種類も殆ど同じです。ただ、代謝に多少の差があるため、摂取する栄養素の必要量とそのバランスが異なるのです。この差、つまり「違い」がペットを愛する飼い主を不安にさせます。わからないならば否定してしまえ的な考え方が「〜してはいけない」式の表現なのかもしれません。しかしそれは反面利点でもあるのです。なぜなら、ヒトの理解力は自分にとって都合よくできているため、一度「大丈夫」と思うと、今度はルール破りを平気でする傾向があるからなのです。ですから、「犬にはヒトの食べ物をあげてはいけない」と言い切ってしまわないと、「少量」ではなく「大量」にあげてしまったり、食餌をヒトと同じ栄養バランスにしてしまった結果病気を招いたりすることを避けるためなのかもしれません。
しかし、かわいいペットに食餌をあげているのは飼い主です。よって、「犬や猫はヒトと同じ物を食べてはいけない」ではなく、「ヒトは犬や猫にヒトと同じように食べさせないよう、気をつける必要がある」ということだと思います。そう、主語は「ヒト」なのです。
 このように犬や猫の健康をヒトと切り離さずに一緒に考える「比較栄養学」的なアプローチが、ペットの健康をより理解する上で役立つと考えます。
「飼い主の健康はペットの喜び、ペットの健康は飼い主の喜び」ですよね。

一覧ページへ戻る