「消化」の重要性

 「心弾む桜の季節!」とは裏腹に最近ちょっと心を痛めていることがあります。前回に引き続き「食への警告」であり、今回は「手作り食の氾濫」についてです。それは本来動物の健康を願いスタートしたはずの手作り食が、いつのまにか製造者の満足と、栄養の情報だけが独り歩きし、肝心の動物の健康を脅かそうとしているからです。何が間違っているのでしょうか?
 栄養学の最初に学ぶこと。それは「What you eat is who you are」つまり、食べるのもが心身の健康を左右するということを言っています。ところが、ここに落とし穴があります。それは、「何を食べるか」にだけ焦点が移ってしまったことです。身体にとって良い栄養が含まれている食べ物をバランスよく食べれば健康を維持できると考えるのは間違いではありません。しかし、口から入った食べ物は、どんなに栄養価の高い安全な食べものであっても十分に消化され、吸収されなければ、心身の健康を培うために必要な「栄養」として体内で働くことが出来ません。よって、「What you absorb is who you are(何を吸収したかが心身の健康を左右する)」ということを認識することが重要になります。特に消化器官が体長比に対して人より短い犬や猫では、それなりの消化を考慮したうえでの食事作りが重要です。
 では、食べ物が十分に消化できないと、身体の中では何が起こるのでしょうか?当然、吸収も不十分なため、「良いものを食べているのに毛艶が悪い、元気がない」などといったことが生じるのは当然ですが、怖いのは体内に毒素が発生することです。未消化な食べものはそのまま小腸から大腸へと送られ、悪玉菌のえさとなります。結果、腸内環境が乱れ、「腐敗」を起こして有害物質を産生します。それが「便秘」です。有害物質は大腸壁を刺激し、浸透性を高めるため、本来バリア機能で防御され、進入できるはずのない抗原なども血液中に進入し、体内をめぐるため「炎症性疾患」を生じます。このような状態が生じると、下痢または便秘、嘔吐、便の異臭、目や耳からの分泌物などの症状として現れます。さらには、このような状態を放置することにより免疫細胞が多く存在する腸壁のバリア機能を損傷することは、免疫力の低下にもつながるため、関節疾患や食物アレルギー、胃腸炎などの疾患にも繋がるのです。
 よって、健康に良く、安全な食べ物を選ぶことももちろん重要ですが、さらに十分な消化、吸収ができる食材や栄養バランスなのかも考慮に入れなければならないのです。また同時にそれらの組み合わせは、個体により異なり、さらには環境や精神状態、性格などが関与してくることも食生活を構築する上で重要な要素だと考えます。
 世の中のすべては「陰陽」の組み合わせにて存在します。良い部分だけを鵜呑みにせずに、情報に振り回されずに、多角的に判断して大切なわがコの食事選びをするように心がけてください。また、良い食べ物をあげたという「思い込み」で、目前で生じている体調の異変を見逃さないでください。目の前で起きていることが「現実」であり、それこそが「真実」です。

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