現代版粗食

 「粗食のすすめ」「粗食料理教室」「粗食レシピ」など、最近あちこちでこの「粗食」という文字を目にします。粗食とは本来「粗末な食事」という否定的な意味です。しかし、最近ではどうも「健康に良い食事」や「自然食」のことを粗食と謳っているようで、その意味合いはどうも混沌としているようです。その証拠に、「粗食が健康によいのに、なぜ高品質のものを食べなければならないんでしょうか?」という質問を先日受けました。つまり、食についての本質を日常から考えている人と、そうではない人とでは、その受け取り方は正反対といっても過言ではないくらいの違いがあるのが現状のようです。
 現代は「飽食の時代」です。食料不足時代のような、読んで時のごとくの「粗食」ではなく、「現代の粗食」を考える必要があるでしょう。かつての「粗食」は、いも類や穀類で食材が限定されており、結果、栄養やエネルギーの「不足」が生じました。現代の「粗食」は大別すると、一つは「おやつ、インスタント食品」など手間をかけない精製食品や加工食品、もう一つは「健康に良い」と考えられている自然食品と考えられます。一見「身体に悪いものと良いもの」で全く違う性質のように感じますが、両者の共通項は栄養やエネルギーの「過剰」です。特に「健康に良い」イメージを持つ自然食品は、玄米、発酵食品、野菜、無添加、無農薬など身体に優しく安全なキーワードを使用しているせいか、その組み合わせやバランスを考えずに、次から次へと添加していく傾向があります。さらには「食べなければ不健康になる」という恐怖心までも付加され、結果、摂取過剰による栄養過剰を生じている点を見逃せません。また一種類の食品に固執し、毎日大量に継続的にとることも同様です。ゴマや豆腐など身体によいからといって毎日過剰に摂取していたら肥満になったりするのがその例です。これらは摂取量や種類、質などのバランスが悪ければ、吸収阻害や、栄養として細胞に取り込まれる率が低下するなどマイナスの結果が生じます。
 では、理想的な「現代流粗食」とはどんなものでしょうか。それは、「体内でのエネルギー産生率をベストにする食事」だと思います。身体を作る多くの細胞が各自の役割を十分に果たすに必要なエネルギーを十分に供給することこそが「健康」の根源であるからです。また、そのエネルギーが効率よく生かされるには、その「質」が重要です。そのためには、エネルギーを作るために必要な炭水化物、蛋白質、脂肪の種類と配合バランスが個体に則しているかがポイントです。さらに、現代では日常生活における運動量が少なく「筋肉量」が低下し、その結果「代謝率」の低下が生じていると考えられます。よって、実際に必要なエネルギー量も再考慮の必要がありそうです。
 つまり、「現代流粗食」では栄養素の不足を考える以前に、全体の組み合わせや、そのバランスが必要だということになりますね。そしてエネルギー産生が効率的に行われた結果、必要な栄養を身体に送ることができれば、自然と免疫力も向上するため、自然治癒力を備えた健康な状態が維持できることになります。
 以上のことは、もちろん犬の食事についても同様です。自分の、そして愛犬の理想的な「現代の粗食」を見つけるためには、従来の「性別、体重、運動量、環境」に加え、犬の「性格や体質」なども関係してきます。日々の観察と微調整の中で自分に、そして愛犬に適した「現代版粗食」を探してますますパワーアップしましょう。

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