猫の膿胸;クラーク胸腔穿刺針利用による胸腔カテーテル法

猫の膿胸;クラーク胸腔穿刺針利用による胸腔カテーテル法

橋本志津、 山岡新生、山村穂積

はじめに

 胸腔カテーテルは、何らかの原因によって胸腔内に異常な液体の貯留(胸水)や気体の貯留(気胸)などが認められる場合、これを抜去することを目的として挿入する。これらの疾患は、肺を圧迫し換気低下を起こすため呼吸困難を引き起こす原因となる。猫では胸水は臨床上比較的多く認められる疾病である。猫の膿胸では胸水の貯留が持続的、また漸増的でありさらに胸腔内の浄化を必要とする。診断後速やかに胸腔カテーテルの挿入および留置を実施すべきである。
 胸腔穿刺には種々の方法や器具、カテーテルが開発され、試みられている。そこで、現在北川動物病院で使用しているクラーク胸腔穿刺針を利用した胸腔穿刺は、比較的操作簡単でかつ安全に使用出来るためここでその概要を述べる。

当院での胸腔カテーテル法の歴史

過去において猫の膿胸は死亡率が高く、古くは注射針を用いてその都度胸腔を穿刺し排膿していた。1976年頃より胸腔にカテーテルを挿入、吸引および洗浄を実施し救命効果は急速は上がるようになり、その一部を報告した〔1〕。胸腔を穿刺する特殊な器具を作成したり、套管針を用いシリコンチューブを胸腔に挿入していた。その後、Folleyバルーン・カテーテル、腹膜環流用カテーテル(ミドリ十字)、サフィード・トロッカーカテーテル、胃管カテーテルなどが使用され、時には全身麻酔や局所麻酔が必要であった。その後PROFLEX(関節用カテーテル)などの使用により麻酔を必要としなくなったが、カテーテルが短いなどの欠点があり、時として治療中に胸腔より脱落し再挿入の必要性に迫られた。そこで現在、アロー社製のクラーク胸腔穿刺針、21G、8F(写真1)を使用し良好な結果を得ている。

膿胸の診断

 一般身体検査から胸水の貯留を確認し、胸腔穿刺によって得られた胸水を検査診断材料とする。一般的に膿胸による胸水の特徴は、肉眼的に不透明で混濁した赤色から乳白色であり蛋白濃度3.5g/dl以上、顕微鏡下で顕著に好中球が認められる、などである。また、膿胸の原因となる病原微生物を検出する目的として胸水の細菌感受性検査を行う〔2〕。

膿胸の治療

 膿胸の原因となる病原細菌が胸水中に存在しない場合も多いが、病患に対して確実に抗生物質の全身投与を行う。さらに、胸腔内カテーテルの留置を実施し、胸水の吸引と浄化に勤める。持続的吸引と洗浄が可能であれば治癒促進につながる〔3〕。

カテーテル挿入方法

  1. カテーテル挿入部位は特殊な場合を除き胸壁の第7から8肋間の最大膨隆部となる中央部を穿刺部位とする。症状により左右胸壁穿刺により治療効果が早く現れる。肋軟骨結合部付近を選ぶ場合には心臓を穿刺する危険があるので細心の注意が必要である。
  2. 穿刺部位を決定し、助手により猫を横臥位に保定する。このとき苦しいようであれば酸素吸入を行う。
  3. 胸壁を広く剃毛し、イソジンや消毒用アルコールで手術部位の消毒と同様の操作を行いドレープで周りを覆う。
  4. 決定された肋骨挿入部位から3cmほど尾側の皮膚に小切開用メス刃あるいは22Gニードルを用いて2mmほどの小切開を施す。
  5. 小切開部位のやや頭側の皮膚をつまみながら肋間挿入部位まで移動する。
  6. クラーク胸腔穿刺針を胸壁に対し直角に立て(写真2)、つまんでいた皮膚を離し、指先で肋骨を確認しながら針先を真下に向けて肋間に軽く挿入する。胸壁を通過したら血管内留置と同様の要領操作で内套を少し引き、針先外套先端が胸壁前方に進めるように倒しさらに胸腔に挿入する。これは肺などを傷つけないための操作である。
  7. ある程度挿入したら胸腔内貯留液の確認のため、さらに内套を注意深く少しだけ抜くように動かし、貯留液が外套に逆流してくることを確認してから内套を引き抜く。この留置針は内套を抜去したときに空気の流入が無いように逆流防止弁が付いているので安心できる。
  8. 胸腔内貯留液を吸引しながら、穿刺針の先端の位置を決め胸壁固定位置にする。
  9. 穿刺針を皮膚に縫い付ける。
  10. この間の操作では麻酔の必要性は無く、猫の体動は無い。

持続吸引法

 膿胸などでの感染性胸膜滲出液の除去には、一方法としてウォーターシールド持続吸引法を実施している。これは、10から15cmH2Oの水圧によってカテーテルから液体を持続的に採取する方法である。持続的除去は膿胸の治癒を完全かつ迅速に実施することができる〔3〕。この場合、左右両側からカテーテルを挿入しておくと猫の縦隔における破綻の有無にかかわらず、片側からの胸水吸引および片側からの洗浄液注入が同時に実施できる利点が挙げられる。

(参考文献)

  1. 武田淳一、山村穂積ほか、日本獣医師会雑誌32、86-88、1979
  2. Ettinger S.J.,Feldman E.D., Kirk'sCurrent VeterinaryTherapy vol.XIII 186-189,1102-1111,W.B.Saunderscompany,PhiladelphiaPennsylvania,2000
  3. Bonagura J.D.,Internal Medicine Fifth ed.819-825W.B.Saunders 
    company,Philadelphia Pennsylvania,2000